東証プライム · 3984 · 6月期 User Local, Inc.

株式会社ユーザーローカル

Webサイト分析、SNS分析、法人向け生成AIを月額制で提供するSaaS企業
終値
¥1,7912026年5月22日
−24%(24M高値2024年5月) · +36%(24M安値2025年4月)
時価総額 / EV
¥285億 / EV ¥191億
ネットキャッシュ ¥94億(時価総額の33%) · 有利子負債ゼロ
EV / 営業利益 · 予想
8.6x
日本SaaS小型株の中央値 ~12〜14倍を下回る · 評価差の主因は現金の使い方と開示の不透明さで、事業の質そのものではない
使用資本利益率(ROCE)
24%
FY23〜FY25:23% · 25% · 24% — 20%台前半で安定。BSの約半分が現預金で構造的に下押し
営業利益率
43% · FY25
9M FY26実績 48.0% (+280bps YoY) · FY26会社計画は41.8%相当。足元の進捗は会社計画を明らかに上回る
発行株式数 · 流通比率
15.9百万株 · 浮動株 ~32%
創業者CEO伊藤将雄氏が直接 37.9% 保有 · 上位10位67% · 自己株351,839株(2.2%)
01 · 上昇局面

この2年間、株価を動かしてきたものは何か

ユーザーローカルは、企業のWebサイト上の行動やSNS上の発言を分析し、法人向け生成AIも月額制で提供するSaaS企業である。2024年5月の高値では、ChatAIの実績が十分に積み上がる前から、生成AI企業として将来の成長を見込んだ高い評価が株価に織り込まれていた。

3984とTOPIX · 過去24ヶ月 · 日足ローソク+出来高
高値 ¥2,347 · 2024-05-14 安値 ¥1,313 · 2025-04-07 現在 ¥1,791
ユーザーローカル · 日足 60日移動平均 TOPIXリベース(1308.T) 出来高

01 · 上昇局面 ユーザーローカルは、2017年上場・単体決算・単一セグメントという極めてシンプルな構造を維持してきた。子会社、持分法、のれんがなく、収益源は実質的に1本のSaaS基盤に集約される。製品群は、既存のデジタルマーケティング解析(User Insight/Social Insight/Media Insight)、AI DX SaaS(Support Chatbot/ChatAI)、および無料利用から有料利用につなげる仕組みの3層。基盤には説明資料で示される340億件超の蓄積データがあり、これがモデル精度と提案力の土台になっている。結果として、従業員112名・単一オフィス体制でFY25売上¥4,582M、営業利益¥1,971M を実現し、営業利益率は43%。2024年春〜夏は生成AIテーマへの選好が強く、株価は 2024年5月14日に¥2,347 まで上昇した。

02 · 反転局面 その後の下落は、会社固有の悪材料というより、小型AI関連全体の評価倍率縮小に連動した色合いが強い。株価は 2025年4月7日に¥1,313 まで調整し、高値からの下落率は44%。一方、FY25実績は売上 ¥4,582M(+17.3%)、営業利益 ¥1,971M(+14.1%)、純利益 ¥1,429M(+20.6%) と増益を維持した。営業利益の伸びが相対的に鈍化した背景には、2025年3月の本社移転費用がある。FY26会社計画(売上¥5,284M、営業利益¥2,207M、純利益¥1,523M)は、移転影響の剥落を踏まえると控えめにも見え、配当も¥8から¥14へ引き上げられた。ここで残った論点は、積み上がる現金が成長投資原資なのか、恒常的な保守運用なのか、あるいは還元に向かうのかである。

03 · 現状 2026年2〜5月の開示は、この資本配分論点に一定の方向性を与えた。2026年2月12日 のQ2短信では1H営業利益 ¥1,217M(+21.6%)、初の中間配当¥10を決定。翌 2月13日 には 500,000株(自己株式を除く発行済株式の3.12%)・¥1,000M上限 の自己株取得枠を公表し、5月7日 のQ3短信では9M営業利益 ¥1,889M(+24.4%)、純利益 ¥1,384M(+31.9%)、営業利益進捗 85.6% を示した。あわせて期末配当は¥10から¥14へ増額(年間¥24、配当性向25%)、株主優待の新設、自己株100,000株(0.61%)の消却も実施。株価終値は2026年5月22日で ¥1,791。次の注目点は、FY26会社計画が保守的か期ズレか、AI-DXの寄与を示す開示が進むか、還元策が単発でなく方針として定着するかの3点である。

02 · 論点

投資家の見方が分かれる3つの論点

四半期決算と説明会資料を踏まえると、論点は三つに絞られる。会社予想を上回る利益が続くのか、ChatAIは高い評価に見合う規模へ育っているのか、そして株主還元を今後も続けるのかである。

論点 01 · 会社計画は慎重か
FY26会社予想は保守的なのか、それともQ4に利益の反動減が出るのか。
強気派 強気派は、9M FY26時点で営業利益が通期会社予想の85.6%、純利益が90.9%に達している点を指摘する。FY25に計上した本社移転費用がなくなり、前年との比較もしやすい。9M営業利益率は48.0%と、前年同期を280bps上回った。会社予想どおりの通期利益に収めるには、Q4の営業利益率が24%前後まで下がる必要があるが、会社はそこまで費用を増やすとは示していない。通期営業利益が¥2,300M以上となれば、この見方は成立する。
弱気派 弱気派は、FY25末に約¥180Mの本社移転費用をまとめて計上していた点に注目する。FY26はその費用がないため、9Mの増益が示すほど恒常的に採算が改善したわけではない。AI-DXの売上は、公共部門の年度初めの予算配分を受けてQ2・Q3に偏りやすい。会社が5月7日に会社予想を上方修正しなかったのも、足元の進捗が年間を通じた実力以上に先行していると認識しているためかもしれない。Q4 FY26の営業利益が前年同期比+15%未満となり、通期実績が会社予想¥2,207Mの±2%に収まれば、この見方は成立する。
論点 02 · AI-DX売上構成
ChatAIは高い評価に見合う規模へ育っているのか、それとも売上の大半は従来製品なのか。
強気派 強気派は、ChatAIが二つの大口顧客を獲得し、利用を継続している点に注目する。京都府は約8,000名の府庁職員を対象に導入し、イオングループはグループ15社超へ広げている。Q2説明会資料でも両者を現在の顧客として明示しており、大規模な公共機関や企業グループは複数年の契約につながりやすい。1Hは売上が+17.7%、営業利益が+21.6%で、売上の増加分に対する利益率は50%近い。既存の固定費をあまり増やさずにAI-DXの売上が加わり、全社利益を押し上げているという見方と整合する。FY26決算説明会で継続収入比率またはChatAI ARRを初めて開示し、それが総売上の25%を超え、前年からの伸びも全社売上を上回れば、この見方は成立する。
弱気派 弱気派は、同社が上場以来ずっと単一セグメントで業績を開示している点を指摘する。一つの売上高に、15年間育ててきた分析製品と、提供開始から1年の生成AI製品が混在しているため、9Mの好調がどちらによるものかは分からない。売上の内訳が分からないまま、生成AI企業として高い倍率を適用するのは難しい。AI-DXを分けて開示しないのは、まだ独立して示すほどの規模に達していないからかもしれない。FY27以降も単一セグメント開示が続き、継続収入比率もChatAI契約数も示されなければ、この見方は成立する。
論点 03 · 還元方針の継続性
2月の自己株買いと5月の増配は、継続的な株主還元の始まりなのか。
強気派 強気派は、5月7日の一つの開示に3つの還元策をまとめた点を重視する。期末配当を¥10から¥14へ増やし、通期配当性向を16%から25%へ引き上げたほか、初めて株主優待制度を導入し、自己株100,000株の消却も決めた。これらは2月13日に決議した¥1,000M・500,000株の自社株買い枠に加わる。四つの動きを合わせて見ると、株価下落への一時的な対応ではなく、株主還元の方針そのものが変わった可能性がある。FY26決算発表(2026年8月)で、FY27も継続する自社株買い枠または配当性向30%以上の下限が明確になれば、この見方は成立する。
弱気派 弱気派は、¥1,000Mの自社株買い枠が¥94億の現金残高に対し約11%に過ぎず、満額執行されても留保利益が配当+自社株買いの合算を上回るため、FY26末のキャッシュ水準は前年比でほぼ横ばいに終わると見る。創業者CEOが37.9%を直接保有しており、この集中度の日本の創業者主導型小型株は歴史的に、来ない可能性のある買収機会のためのオプショナリティを残し続けてきた。見方が成立するのは、FY27の資本配分スライドが現金上限を明示せず~25%配当性向を再掲し、FY26の自社株買いが¥1,000M枠の70%未満で執行終了する場合である。
03 · 注目点

資本効率を高めるためにできること

直近の開示を踏まえ、評価を左右する三つの材料を挙げる。いずれも利益が増えるのを待たず、開示と資本政策を明確にすることで評価を変え得る。

注目点 01 · 開示
継続収入比率とChatAI ARRの内訳
FY26決算資料で公表され得るが現状未開示の項目
FY25 売上(開示済)
¥4,582M
デジタルマーケSaaS売上
未開示
AI DX SaaS売上(ChatAI等)
未開示
継続売上比率
未開示
ChatAI ARR / 契約数
未開示
単一セグメント · 製品別の売上構成も継続収益の比率も未開示
会社全体が1本の売上線で運営されており、外部投資家は AI-DX 成長部分を日本SaaS小型株のブレンド倍率で評価するしかない。独立評価のための情報がないからである。各四半期の補助スライド1枚に (i) 継続売上比率、(ii) ChatAI の契約数・ARR・顧客群定着率、(iii) 製品ファミリー別粗利 が加われば、AI-DXプレミアムの議論を「推測」から「観測」へ転換できる。必要な追加情報は3項目であり、倍率効果は、市場が現在不透明性に対して織り込んでいる割引に作用する。
実行負担
IR資料の追加3項目
最も早い確認時期
FY26決算説明会 · 2026年8月
注目点 02 · 資本政策
保有する現金の上限と、継続的な総還元方針
5年間の現金残高推移 · ¥M(期末残高)
FY21(2021年6月)
¥4,696
FY22(2022年6月)
¥5,320
FY23(2023年6月)
¥6,367
FY24(2024年6月)
¥7,677
FY25(2025年6月)
¥8,546
Q3 FY26(2026年3月)
¥9,394
5期連続で現金残高が増加 · FY26 ¥1,000M自社株買い枠は現残高の11%に過ぎない
チャートの裏側にある数字はシンプルである。FY25純利益¥1,429M、配当¥225M(配当性向16%)、capex ¥260M(うち¥182Mは本社移転一時費用)、それでもネットキャッシュは¥869M増加した。同社は20年の歴史で買収を1件も実施していない。トレーリングROCEは24%だが、留保された円は年率約0.4%の銀行預金金利でしか働かない。具体的な上限の明示 — 配当性向30%下限発行株式3%の継続的な自社株買い枠、もしくは運転資金需要¥1.2億・総負債¥12億に対する運転現金上限~¥30億 — のいずれか1つが公表されれば、4年分の機械的な現金蓄積を複数年に亘る還元方針として評価しやすくなる。現状の開示と配当方針が続けば、現金は毎年機械的に積み上がる。
実行負担
取締役会決議1件
最も早い確認時期
FY26決算 · 2026年8月
注目点 03 · 開示
創業者からの経営承継方針はいつ明らかになるか
保有・意思決定集中度 · 上位10位(FY25有価証券報告書)
伊藤将雄(創業者CEO)
37.9%
マスタートラスト信託銀行
11.4%
日本カストディ銀行(信託)
5.8%
上位10位合計
67.1%
その他の流通株式
~32%
公表された後継体制なし · 副社長/No.2の指名なし · 創業者CEOが直接37.9%保有
創業者CEO伊藤将雄氏は発行済株式の37.9%を直接保有し、すべての重要な資本配分判断を主導している。CFO岩本大輔氏が運営・IRを担当する。現行の有価証券報告書には後継体制パラグラフが存在せず、副社長クラスの指名もなく、創業者不在時の運営継続体制も記述されていない。機関投資家はこの形態に対し株主資本コストへ100〜200bpのキーパーソン・リスク・ディスカウントを適用する — 損益計算書には現れないが、本源価値ベースで5〜10%の希薄化要因となる。製品・技術No.2およびNo.3の経歴、重要事項を取締役会までどのように上げて判断するかという手順、創業者の保有期間方針を有価証券報告書の短いセクションに記述すれば、そのディスカウントは圧縮可能である。
実行負担
有価証券報告書に1段落、説明資料に1枚追加
最も早い確認時期
FY26有価証券報告書提出 · 2026年9月
04 · シナリオ

今後4四半期のシナリオ

弱気・基本・強気の三つに分け、業績と開示の組み合わせごとに評価レンジを試算した。将来の株価を予想するものではない

弱気シナリオ
¥1,400 〜 ¥1,700
−22% 〜 −5%
想定倍率 · ~6〜8倍 EV/営業利益(予想)
Q4で営業利益成長が減速し、FY26はガイダンス¥2,207M範囲内で着地。3注目点のいずれも着地しない
前提条件
  • FY26通期営業利益が会社計画¥2,207Mの±2%で着地。
  • FY26 1H/通期決算で継続売上比率・ChatAI ARR・製品別利益率の開示なし。
  • 2026年2月の自社株買いが¥1,000M枠の70%未満で2026年8月5日までに終了。
  • 追加の自社株買い枠の発表なし・現金上限の明示なし・FY27配当政策の枠組みなし。
  • FY26有価証券報告書に後継体制パラグラフの追加なし。

¥1,400〜¥1,700はFY26予想EV/営業利益で約6〜8倍にあたり、日本の非公開企業を買収する際に見られる7〜10倍に近い。利益の減少よりも評価倍率の低下を想定し、多額の現金と開示不足が引き続き割り引かれる前提である。

中立シナリオ
¥1,950 〜 ¥2,300
+9% 〜 +28%
想定倍率 · ~9〜11倍 EV/営業利益(予想)
営業レバレッジがQ4まで継続、FY26がガイダンス比数%上振れで着地、3つのうち1注目点が着地する
前提条件
  • FY26通期営業利益が ¥2.3〜¥2.4億 (会社計画比+4〜9%)で着地し、9Mで見られた利益率の改善が期末まで続く。
  • 3注目点のうち1つが着地 — 最有力はFY26決算でのリカーリング売上比率開示。
  • 2月の自社株買いが2026年8月5日までに概ね満額執行・FY27の配当性向は~25%維持。
  • 既出以外の追加還元方針なし・現金残高はYoYでほぼ横ばい。
強気シナリオ
¥2,600 〜 ¥3,000
+45% 〜 +68%
想定倍率 · ~13〜16倍 EV/営業利益(予想)
3つのうち2注目点が着地。AI-DX売上線が名前を与えられ、還元方針が一時的なものから公式の枠組みへと移行する。
前提条件
  • FY26通期営業利益¥2.4億以上・売上¥5,500M以上で着地。
  • FY26決算資料がリカーリング売上比率とChatAI ARR を初めて開示 — 注目点01着地。
  • FY27資本配分スライドが配当性向30%以上の下限もしくは継続的な自社株買い枠を明示 — 注目点02着地。
  • FY27のQ2もしくはQ3で会社計画上方修正があり、長年の「期中据え置き」パターンが破られる。

¥2,600〜¥3,000は、業績予想の引き上げよりも、現在8.6倍の評価倍率が高まることを前提とする。2024年5月の高値¥2,347付近へ戻るには、三つ目に挙げた経営承継方針の開示も必要になる。ただし、これは三つの施策のなかで最も時間がかかり、今後4四半期より先の課題である。

SOTP · SaaS本業
デジタルマーケSaaS + AI DX SaaS 合計(単一セグメント)
FY25 売上(合計)¥4,582M
FY26 会社計画売上¥5,284M
FY26 会社計画営業利益¥2,207M
営業利益率(連結予想)~41.8%
同業他社の評価水準(国内上場・単一セグメントSaaS)~12〜14倍 推定
中位想定EV: ~¥260〜310億(FY26予想営業利益×12〜14倍)
SOTP · ネットキャッシュ
貸借対照表上の現預金(時価総額の33%)
Q3 FY26末ネットキャッシュ¥9,394M
運転資金需要(推定)~¥1,300M
明示方針対比の余剰~¥8,100M
FY26自社株買い枠(公表済)¥1,000M
EVへの加算額(額面)¥9,394Mを全額加算
実績ベースROCE 24%に対し、現金は銀行預金利率~0.4%で運用されている。市場評価の重しは、現金の活用方針が示されていないことにある
同業他社倍率比較 · 2026年7月10日時点
上場する国内の単一セグメントB2B SaaS同業他社 · 基準時点の株価でEVを再計算 · 各社の直近決算短信に基づく過去12ヶ月EBITDAを使用
3984 ユーザーローカル(本レポート)予想8.6倍 · 実績7.7倍 · ROCE 24%
3922 PR TIMES実績6.5倍 · ネットキャッシュ時価総額比~25%
4165 プレイド実績14.8倍 · CXプラットフォーム
4382 HEROZ実績~10倍(FY4/26開示EBITDA ¥10.3億)· プロジェクト比率高
5574 ABEJA実績34.5倍 · 早期段階
過去12ヶ月の実績で比べると、ユーザーローカルは国内上場の単一セグメントSaaSの中でPR TIMESと並ぶ低い評価水準にあり、AI-DX色の強い同業他社(プレイド・ABEJA)を大幅に下回る。ここで用いる実績倍率の分母はEBITDAであり、営業利益ではない。ユーザーローカルの予想倍率にはFY26会社計画営業利益¥2,207Mを使用している。同業他社については、各社の会社計画を別途取得し、基準日も管理する必要があるため予想倍率を算出していない。EVはすべて2026年7月10日の終値で再計算した。
SOTP · 合計値の確認
SaaS本業 + ネットキャッシュ · 1株当たりの試算範囲
本業EV(中間値)~¥280億
ネットキャッシュ(額面)¥94億
試算上の株主価値(額面)~¥370億
1株あたり(15.9百万株)~¥2,330
現在株価¥1,791との比較現在株価比 ~30%
市場は本業を~9倍で評価し現金にもディスカウントを適用 — 還元注目点が着地する前に営業倍率のみで中立シナリオを支える水準
重要なご注意 · Important Disclaimer

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