株式会社ヤプリ
この2年間、株価を動かしてきたものは何か
株価は2025年4月7日の¥585から同年8月18日の¥1,263へ、4カ月で+116%上昇した。初配と、複数製品による成長への期待を織り込んだ動きだった。その後は9カ月にわたって約40%下落した。転機となったのは、2025年11月13日に発表したチューズモンスター(現 株式会社ヤプリフードコネクト)の買収である。FY25会社予想の上方修正と同日に開示され、買収対価¥130百万円のうち¥113百万円(87%)をのれんとして計上した。2026年2月13日の本決算では、FY26で繰越欠損金による節税効果を使い切ると説明した。FY27から純利益が通常の税負担を反映した水準に戻ることも、株価の見方を変えた。
01 · 上昇局面 ヤプリの主力事業は、専門のエンジニアがいなくてもiOS/Android向けアプリを作成し、配信後の運用まで行えるノーコードSaaSである。利用企業はアパレル、外食、スポーツチーム、メディアなどに広がり、近年は社内向けの従業員コミュニケーション(HR領域)でも導入が増えている。強みはアプリを作る機能そのものより、ストア審査への対応、OS更新、プッシュ通知、会員ID、ポイント、CMSなど、運用に伴う面倒な作業を継続的に引き受ける点にある。Q1 FY26のLTM解約率は0.86%で、前期の0.92%からさらに低下した。売上は月額利用料などの継続収入が約8割、導入支援などのサービス収入が約2割を占める。2024年以降はYappliにWebX、MiniApp、MobileOrderを加えた4製品体制へ広げ、Q1 FY26の契約数は958件、粗利率は69.8%、月額ARPUは¥466千、LTV/CACは6.6倍となった。新規顧客への導入支援を起点に、既存のCRM・ID・ポイント基盤へ別製品を追加していくことで、顧客当たりの取引を広げる構造である。株価は¥585の24カ月安値を2025年4月7日に付けた後、2025年5月14日から反発した。Q1 FY25決算と同日に会社が「配当方針の変更」を発表し、初配となる年間¥12を示したことが転機となった。2025年11月13日には年間¥13へ増額し、FY25実績の配当性向は18.1%となった。成長投資に資金を回すだけだった会社が株主還元も始めたことで、市場の見方が変わった。その後、2025年8月13日のQ2決算で導入支援売上が伸び、2025年5月に提供を始めたYappli WebX(2024年10月に譲り受けたsmartLPのソフトウェア資産が基盤)の展開も進んだ。株価は8月18日に¥1,263まで上昇し、4カ月で+116%となった。この水準は、当時の会社計画を前提に翌12カ月EV/EBITで約15倍に相当し、黒字の国内中型SaaS企業としても高い評価だった。
02 · 高値圏での調整 2025年11月13日、会社は同日に2つの開示を行った。第一に、FY25営業利益ガイダンスを¥750Mから¥830Mへ引き上げ、配当予想も増額 — 単独で読めばラリーを継続させるべき上方修正であった。第二に、同日の別開示で株式会社チューズモンスター(現 株式会社ヤプリフードコネクト)の取得を¥130Mの現金対価で発表 — このうち¥113M(87%)がのれんとして認識され9年定額償却が始まる旨、ならびに当該案件のIRRを同額の自社株買い実施と比較する事後検証フレームは未提示である旨が明らかとなった。秋を通じてマルチプロダクト戦略の実行リスクを市場が織り込み直す中、株価は¥900台から¥700台へマルチプル圧縮した。2026年2月13日のFY25本決算は売上¥6,056M、親会社単体営業利益¥889M(+61.5%)、純利益¥920Mと、11月修正後ガイドを上回って着地した。しかし同時開示のFY26ガイダンスは営業利益¥1,000M(+13.3%)、純利益¥930M(+1.0%)と減速感を打ち出し、決算説明会で会社はFY26で繰越欠損金による税効果メリットを使い切るため、FY27純利益は本業の営業利益ベースへ正常化する旨を明言した。市場の読みはマルチプル圧縮の追加触媒として作用し、冬から春にかけて株価は¥800台から¥700台へ修正局面を辿った。反転の構造は2層 — FY25からの傾き減速に対する正当なマルチプル収斂と、FY27税効果ランオフ物語への過剰反応 — が並列している。
03 · 現時点 FY26 Q1決算は2026年5月13日に着地した。売上¥1,707M(+19.1%)、営業利益¥396M(+77.6%)、純利益¥390M(+75.1%)、営業利益率23.2%はFY26通期ガイド14.7%を8.5ポイント上回り、上場以来の最高水準を更新した。LTM解約率は0.92%から0.86%へ改善し、会社が想定したFY26下半期の改善時期を1〜2四半期前倒した。LTV/CAC比率6.6倍は会社の再投資閾値5倍を上回り、4プロダクト合計契約数は958件、クロスセル事例にはアルペン、ドクターマーチン、猿田彦珈琲が並ぶ。同日に発表されたFY26年間配当の¥14から¥15への第2次上方修正(配当性向20.6%)に加え、4月1日付で登用済みの4名の執行役員(COO・CFO・CHRO、CoSは1月1日付) — 特にCFO配置は資本配分規律の制度化シグナルとして受け止められる。株価は¥745まで戻したが、2025年8月の水準から依然−41%にとどまり、フォワードEV/EBITで約6.5倍分のマルチプル圧縮が残存している — その半分はQ1営業利益率の構造性に対する正当な留保、残り半分はFY27税効果ランオフ物語への過剰織り込みとして読める。今後4四半期で解消されるのは、Q1の営業利益率23.2%が広告費を¥180M/四半期へ通常化させた後もQ2およびQ3 FY26がそれぞれ営業利益率18%以上で着地し構造性が確認されるか、資本還元政策が配当性向30%以上または公式の総還元算定式として制度化されるか、そして領域別解約率の開示によりMarketingコホートの維持率がLTM 1.0%未満で着地するか、という3点である。
投資家の見方が分かれる3つの論点
直近の決算とIR説明会を踏まえると、論点は三つある。利益率は今後も高まるのか、株主還元は続くのか、複数製品による成長は採算を伴うのかである。
評価を変え得る3つの開示・資本政策
資本効率をめぐる疑問を減らし得る三つの材料を挙げる。いずれも利益が増えるのを待たずに、評価を変え得る。
今後4四半期のシナリオ
今後4四半期に考えられる展開を、弱気・基本・強気の三つに分けた。開示と業績の組み合わせを示したもので、将来の株価を予想するものではない。
- Q2 FY26営業利益率が 16%以下 に圧縮、通期会社計画14.7%付近で着地。
- FY26通期契約数の伸びが +5%以下。マーケティング領域の解約圧力再燃でLTM解約率が再度1.0%超へ。
- FY26本決算で配当性向目標が据え置かれ、自社株買い枠の認可はなく、ネットキャッシュは ¥15億 を突破する。
- 領域別解約率の開示なし、YFC初年度売上は ¥2.5億未満 で営業損益は損益分岐点以下。
- FY27に税負担軽減の効果がなくなり、純利益が通常の税負担を反映した水準へ戻ることへの懸念が、市場の見方を引き続き左右する。
弱気ケースの¥550–¥650は、FY26予想ベースEV/EBITで ~4.6–5.6x に相当する。国内中型SaaS同業他社の10–15xを大きく下回り、日本の軽資産型技術企業の非公開化案件で見られる7–10xも下回る水準である。業績ではなく評価倍率だけが下がり、戦略買収者が支払う水準より市場評価が低い状態が続く場合に限って成り立つ。
- FY26 Q2(2026年8月)営業利益率 18%以上 ・売上成長率15%以上、FY26営業利益が ¥10.8億以上 (会社計画比+8%)でQ3に上方修正発表。
- FY26通期契約数が 1,020件超 で複数製品の追加導入が継続。
- 領域別解約率・NRRの開示 または 公式の総還元算定式 がFY26本決算で公表される。
- YFC初年度売上が ¥2.5億〜¥4億 の範囲で、貢献利益はプラス。
- Q2 FY26営業利益率 20%以上、売上成長率18%以上、FY26営業利益 ¥11.5億以上 (会社計画比+15%)で上方修正発表。
- 合計契約数が 1,050件以上 へ。Yappli MiniApp + MobileOrderが重点顧客以外にも広がる。
- FY26本決算で資本還元政策が制度化、¥3〜5億規模の自社株買い枠が配当と並行で認可される。
- 領域別解約率開示でマーケティング顧客群がLTM 1.0%未満で確認される。
- FY26本決算でFY27純利益の正常化が事前に説明される — FY27営業利益成長率15%以上を維持しつつ、純利益は営業利益基準にリセット。
強気ケースの上限¥1,350は2025年8月高値¥1,263を僅かに上回り、予想ベースEV/EBITが~13-15xまで上昇する場合の水準である。サイボウズ(10x)、PR TIMES(12x)、HENNGE(25x)が並ぶ国内中型黒字SaaSの評価水準では中ほどに当たる。さらに高い評価には、Yappli WebX・MiniAppが第2の収益成長源として定着することが必要になるが、これは今後4四半期では確認しきれない中期的な成長余地である。
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