東証グロース · 5570 · 9月決算 JENOBA CO., LTD.
株式会社ジェノバ
GPS受信機をセンチメートル級測位ツールに変える月額サブスクリプション
直近終値
¥6775月28日
−23% 24ヶ月高値¥875 · +26% 24ヶ月安値¥539
時価総額 / EV
¥9.0bn / EV ¥5.9bn
自己株式控除ベース · 純現金 ¥3.0bn(現金¥3.05bn・有利子負債ゼロ)= 時価総額の34%
EV / EBIT · 予想
7.6x
自己株式控除後EV ÷ FY2026会社予想営業利益 ¥779M
ROCE · 実績
23% · FY2025
EBIT ÷ 運用資本 · ROE 15.8%(有報ベース)
営業利益率 · 単体
56.6% · FY2025
FY2026予想 54.4%(サーバー更新で一時的に低下)
株式 & 浮動株
13.23M株 · 自己株式控除後
浮動株 ~35% · 南家 ~36% · トプコン 10.1%
はじめに

ジェノバは何をやっている会社か?

ジェノバは、日本で「自分が今、正確にどこにいるか」を知る必要がある人々を支えるサービス会社である。土地を測る測量士、建設現場でブルドーザーを操作する施工業者、田畑で農機を走らせる農業者、森林を空撮するドローン事業者──いずれも単独のGPS受信機では数メートル単位の誤差が出るため、業務に使える精度ではない。ジェノバはこの誤差を補正する。顧客の受信機が概略位置をジェノバのサーバーに送ると、サーバーは補正信号を返し、位置精度を数センチメートル単位まで引き上げる。顧客は月額のサブスクリプションでこのサービスを利用する。

このサービスは、国土地理院が全国に設置した約1,300点の電子基準点のデータを利用している。ジェノバは日本測量協会経由でリアルタイムの観測データを取得し、独自のアルゴリズム(特許第5832050号)で解析した上で配信している。2025年9月期の売上高は13億6,700万円。営業利益は7億7,400万円で、売上高100円のうち57円が営業利益として残った。期末契約数は9,348件であり、過去5年間にわたって年率6%で増加してきた。

見方として、二つのことが同時に成立している。事業としては極めて優れている──17名の従業員で9,000を超える契約を支え、新規売上のほぼすべてが営業利益として残り、解約は稀である。一方、株式としては必ずしも優れているとは言えない──ROEは2021年9月期の20%から2025年9月期の16%まで低下した。これは現金が積み上がるペースに対し、株主還元が追いついていないためである。2026年3月末の現金残高は¥3,050M、時価総額の3割超に相当する。2026年5月に経営陣は通期予想を据え置きつつ、配当を6円から7円に引き上げた。この¥30億の現金が株主還元として戻されるのか、M&Aで運用されるのか、あるいは積み上がり続けるのかが、市場が見極めようとしている論点である。本レポートでは、株価推移、3つの未解決論点、今後のカタリスト、バリュエーションの順に整理する。

01 · プライス・レジーム

過去2年で株価はなぜ動いたのか?

過去2年間で、株価は広い弧を描いてきた。2024年7月に¥875まで上昇した後、2025年4月の¥539まで38%下落し、その後¥677まで戻した。下のチャートは、株価の動きが会社開示とどう連動していたかを示している。

5570 vs TOPIX · 日足ローソク足+出来高
ピーク ¥875 · 2024-07-01 ボトム ¥539 · 2025-04-07 現在 ¥677
ジェノバ · 日足 60日移動平均 TOPIXリベース(1308.T) 出来高

01 · ピーク・レジーム ジェノバは2023年4月、東証グロース市場に上場した。上場後初の通期決算(2023年9月期)は売上高10%増、新規契約+626件と順調に推移した。投資家にとっては、安定して伸び、売上高100円のうち57円を営業利益として残すサービス事業に映った。2024年7月、株価は¥875まで上昇。当時のPERは約17倍で、この利益率を持つ国内小型成長企業として標準的な水準であった。

02 · コレクション 2024年後半から2025年4月にかけて、株価は¥875から¥539へ38%下落した。同期間の東証全体はほぼ横ばいで、地合いだけの問題ではなかった。開示面で二つの変化があった。第一に、新規契約の積み上がりペースが鈍化(FY2024は純増535件、FY2025は純増284件)。第二に、ROEが2021年の20%から2024年の14.5%へ4年連続で低下していた。投資家は両方を注視した。

03 · 自己株取得+業績連続更新 2024年12月、FY2024決算と同時に、会社は¥7億4,000万円の自己株式取得を実行した。当時の時価総額の約9%にあたる規模で、自己株式数は607千株から1,607千株へ拡大、一株当たり利益は上昇した。2025年11月には10期連続最高益(売上高13.7億円、営業利益率57%)を発表。同月28日には更新版の「事業計画及び成長可能性に関する事項」を公表した。

04 · 現在 2026年5月13日、会社はFY26 Q2決算を発表した。売上高+4.8%、営業利益+3.3%、中間純利益+4.2%──いずれも中間期過去最高である。上期のサーバー更新で有形¥38M・無形ソフト¥84Mを計上したため、売上総利益率は微減。通期予想は据え置き(売上+4.8%・営業利益+0.7%)、配当は6円から7円へ。現在の¥677は2年レンジ中央、現金は時価総額の34%相当である。

02 · コンテンション

市場が議論している3つの論点

マージン持続性、上流データへの単一依存、そして純現金の使い道 ─ 強気と弱気がそれぞれ何を見ているか。

論点 01 · マージン持続性
FY2026 OP率予想の低下は一時要因か構造変化か?
強気
会社は「一時要因」と説明する。FY2026上期にサーバー及びソフトウェアで¥1.22億円を計上した──FY2025通年(¥0.91億円)を既に上回る規模である。電子基準点データの仕入は年間定額契約のため、新規契約による限界費用はほぼゼロのままである。見方が成立するのは、下期OP率が55%を超え、通期実績が54.4%予想を上回って着地する場合である。
弱気
弱気の読みは、これがハードウェア更新ではなくソフトウェア投資であるという見方である。無形固定資産はFY2024末¥6Mから2026年3月末¥133Mへ、18ヶ月で22倍に拡大した。ソフトの償却期間を5年と仮定すると、年間償却費は現在の¥45Mから、FY2027までに+¥26〜35M程度増える計算となる。見方が成立するのは、契約数成長が6%にとどまり、定常状態OP率が57%ではなく50%近辺で安定する場合である。
論点 02 · 上流データ依存
電子基準点データの単一供給依存は、堀か単一障害点か?
強気
国土地理院が全国に設置する電子基準点約1,300点の民間配信を、国は日本測量協会に独占的に委ねている。ジェノバはこのデータが2002年5月に民間開放された当初からの取引先である。競合参入を試みる企業も、同じ単一供給者を通すしかなく、ジェノバが既に持つ実績以上のものは得られない。見方が成立するのは、日本測量協会の値上げが過去24年間と同様に発生しない場合である。
弱気
ジェノバは唯一の供給者に対して交渉レバレッジを持たない。有価証券報告書のリスク欄でこの依存度の高さを会社自身が明記している。24年間の安定価格は将来を保証するものではない──ゼロ更改の期間が長いほど、いつかの一回の改定幅が大きくなる可能性がある。別途、QZSS(みちびき)からの無料補正信号も精度が年々向上している。見方が成立するのは、無料信号が基本農業・サブメーター級測量に十分な精度に達し、ジェノバの入口顧客層を置換していく場合である。
論点 03 · 資本配分
時価総額の3割を占める¥30億の現金は、どう還元されるか?
強気
2024年末、会社は¥7.4億円の自己株式取得を実行した──時価総額の約9%にあたる。機動的な還元判断の実績である。事業計画にはM&Aが戦略の一部として明記され、2023年4月のKDDI業務提携からはドローン・観光案件が商用化フェーズに入りつつある。JII試算:無借金で保有する¥30億の現金は¥5〜10億規模の買収を可能にし、稼働事業ROIC 23%水準で運用できれば年間¥1.15〜2.3億円の営業利益が追加される。
弱気
経営陣はM&Aを口にするが、実行していない。事業計画は3年連続で同じ表現を繰り返しているが、案件発表はゼロ。配当性向はFY2024 14.3%→FY2026予想17.0%と緩漸増にとどまる。投資有価証券の利回りは約1.2%。見方が成立するのは、現金¥10億あたり利息収入が¥1,000〜1,500万円で、稼働事業ROIC 23%で運用した場合の¥2.3億円を下回り続ける場合である。
03 · カタリスト

今後12ヶ月で何が変わり得るか?

3つのレバー(売上、業務効率、資本還元)と、それぞれの実行コストと最初の観測タイミング。

レバー 01 · 売上レバー
KDDI業務提携を起点とした新領域は、契約数成長を年率6%から押し上げられるか?
期末契約数の推移(5年CAGR 6.0%)
21期
7,393件
22期
7,903件
23期
8,529件
24期
9,064件
25期
9,348件
FY26 Q2 (26年3月末)
9,523件
21期から25期で純増 +1,955件 · FY26 Q2末は12月末ピーク9,585件からIT農業のシーズン要因で62件減
過去5年間、契約数は6つの主力分野(測量、航空測量、土地家屋調査、ICT土木、IT農業、ドローン)を通じて年率6%で増えてきた。次の成長レイヤーは、2023年4月締結のKDDI業務提携から生まれる新領域である。実証実験段階だったドローン物流、モビリティ、テーマパーク向け音声ガイドなどが、有償サービスとしてリリースされ始めている。FY2027にかけて契約数成長率が7〜8%レンジに加速できれば、現在キャッシュ・ピールに織り込まれているディスカウントは縮小余地が出る。
実行コスト
低(既存配信基盤の上に追加)
最短カタリスト
FY2027 Q1 (2026年11月)
レバー 02 · オペレーティング・レバー
¥133Mまで積み上がったソフトウェア無形固定資産は、何の用途で投資されているか?
ソフトウェア無形固定資産の積み上がり(期末)
22期末
¥13M
23期末
¥8M
24期末
¥6M
25期末
¥61M
26年3月末
¥133M
18ヶ月で+¥127M · 過去最大のソフトウェア投資サイクル
FY2024末時点で、無形固定資産(ソフトウェア)は¥6Mに過ぎなかった。2026年3月末には¥133M──18ヶ月で22倍に拡大した。大半はFY2026上期に集中している。2026年5月の決算開示では、用途の具体的な内訳は明示されていない。会社は3つの成長戦略を明記している:機材メーカーとの協業強化、6つの主力分野以外の新領域開拓、取次店向けツール強化。FY2026下期またはFY2027 Q1の決算で投資内訳が説明されれば、市場は「コスト圧迫」から「次の収益源の準備」へと読み替える。
実行コスト
中(H1 CapExは年率換算で売上比約17%)
最短カタリスト
FY2026 Q3決算 (2026年8月)
レバー 03 · 資本還元レバー
貸借対照表上の¥30億の現金は、どう使われるか?
貸借対照表上の現金とエクイティ(FY2025末)
現金及び預金
¥3.05bn
投資有価証券
¥0.55bn
時価総額
¥8.85bn
純現金 / 時価総額
34%
FY25 営業CF ¥589M · FY25実績は配当¥79M+自社株買い¥740M=¥819M
2024年末の¥7.4億円自己株式取得が、会社の歴史で唯一の大型還元実績である。それ以降は同様の発表がない。FY2025の営業キャッシュフローは¥5.89億円、うち¥0.79億円が配当として支払われ、残り¥5.10億円は現金として残った。定常的な自社株買いの導入、配当性向30%超への引き上げ、初の対外M&A発表──いずれかが具体化されれば、現在の予想EV/EBIT 7.5倍は、ストック型データ配信の国内ベンチマークである約11倍へと近づき得る。
実行コスト
低(手元資金で完結)
最短カタリスト
FY2026本決算 (2026年11月)
04 · バリュエーション

ここからの株価成立条件は?

以下はJII の試算であり会社ガイダンスではない。参考価格は2026年5月27日終値 ¥669、FY2026会社予想営業利益 ¥779M、自己株式控除後EV ¥5.81bn。各シナリオはJIIが下記前提で試算した参考値である。

ベア
¥500 – ¥600
−25% から −10%
想定マルチプル · 予想EV/EBIT ~5–6倍
サブスク事業が減速し、ソフト償却が本格化し、現金は還元されない。契約数成長は年率6%→4%へ減速。FY2027にソフト償却が本格化しOP率は50%へ低下。自社株買い・M&Aなし。みちびきの無料信号が入口層を代替。
EV/EBIT 5〜6倍はトプコンの半分以下。時価総額の34%相当の現金を抱える事業として保守的水準である。
主要ドライバー
  • 契約数成長率は 4〜5% へ減速
  • ソフト償却本格化でOP率 50% へ低下
  • 現金残高は¥3.5bnに積み上がるが還元なし
  • みちびき無料信号が入口層を代替
ベース
¥700 – ¥850
+5% から +27%
想定マルチプル · 予想EV/EBIT ~7–9倍
事業は現状ペースで継続し、株主還元が段階的に改善する。契約数は年率6%で継続。FY2027にOP率は56%近辺で安定。配当性向は20〜25%へ段階的に上昇。自社株買いがほぼ年1回のペースで実施され、現金は時価総額の25%以下に安定する。
主要ドライバー
  • 契約数成長率 6% 維持
  • FY2027 OP率は 56%前後 で安定
  • 配当性向 20〜25% へ引き上げ
  • KDDI由来の新領域案件が個別発表
ブル
¥900 – ¥1,100
+35% から +65%
想定マルチプル · 予想EV/EBIT ~10–12倍
新領域とM&Aが現金ディスカウントを解消する。KDDI由来のドローン物流・MaaS案件がFY2027に有償提供化。契約数成長率は7〜8%へ加速。FY2026〜27に初の対外M&A(¥5〜10億)または¥5億円超の追加買戻しが発表される。
EV/EBIT 10〜12倍はストック型位置情報配信の国内ベンチマークであるゼンリン(9474、約11倍)並み。
主要ドライバー
  • 契約数成長率 7〜8% へ加速
  • KDDI由来の新領域案件が個別収益化
  • 初の対外M&A発表(¥5〜10億規模)
  • 配当性向 30%超 へ引き上げ
SOTP · コア配信サービス
ネットワーク型RTK+後処理データ+J-View®
FY2025 売上高(年率)¥1.33bn
5年売上CAGR6.8%
想定 EV/売上高3.5–5.0倍
含意ビジネス価値 ¥4.6–6.6bn
SOTP · 新領域(KDDI業務提携)
ドローン物流・モビリティ・観光ガイド・インフラ点検
FY2025 売上高(推定、配信内訳)¥30–50M
想定成長率30–50%
想定 EV/売上高8.0–12.0倍
含意ビジネス価値 ¥0.2–0.6bn
SOTP · 純現金+投資有価証券
現預金¥3.05bn・投資有価証券¥0.55bn・有利子負債ゼロ
現預金¥3.05bn
投資有価証券¥0.55bn
遊休資本ディスカウント15–25%
含意価値 ¥2.7–3.1bn
SOTP · 類似企業マルチプル
予想EV/営業利益、レンジ較正用
9474 ゼンリン~11倍
7732 トプコン~13倍
9233 アジア航測~9倍
TRMB トリンブル~27倍
HEXA-B ヘキサゴン~22倍
国内サブスク/測位同業の中央値は約 11倍。海外大手はその約2倍。
SOTP · エクイティ・ブリッジ
含意エクイティ価値と一株当たりレンジ
コア配信サービス(3.5–5.0倍 EV/売上高)¥4.6–6.6bn
新領域(8.0–12.0倍 EV/売上高)¥0.2–0.6bn
純現金+投資有価証券(15–25%ディスカウント)¥2.7–3.1bn
SOTP含意エクイティ¥7.5–10.3bn
自己株式控除後株数(2026年3月末)13.23M株
含意一株当たり¥567–¥779
現在¥669はSOTPレンジの中央付近。SOTP中央値は約¥673で、現在価格はほぼフェアバリュー。+10%の上値を取りに行くには、新領域の収益化または資本配分の具体化が必要。
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