ニッポンインシュア株式会社
この2年間、株価を動かしてきたものは何か
株価は2024年5月の¥897から2025年8月の¥3,485まで約4倍になった。初回保証料に加え、既存契約から更新保証料・月額保証料が積み上がり、売上の伸び以上に利益が増えることを織り込んだ。その後は上昇幅の約3分の1を失った。転機は、2025年11月に発表したFY9/25本決算とFY9/26会社計画だった。FY9/25の営業利益は+81.5%伸びたが、翌期計画は+16.4%にとどまった。
01 · 上昇局面 ニッポンインシュアは、家賃債務保証を中核とする東証スタンダード上場会社である。FY9/25売上の約 94% を保証事業が占め、上場企業ではCasa(7196)や全保連(5845)が比較対象になりやすい。事業の役割は、連帯保証人を立てにくい、または立てたくない入居者に代わって、家賃債務を保証することにある。不動産管理会社が「Cloud Insure」を通じて申込を取り次ぎ、同社は2008年10月の家賃債務保証開始以降に蓄積した家賃滞納データと、JICC・LICCの加盟データを使って与信判断を行う。滞納が発生した場合は代位弁済を行い、その後は社内コールセンターと全国7拠点の督促体制で回収する。H1 FY9/26時点の回収率は 99.1%、求償債権発生率は 6.2% である。売上は、初回保証料、更新保証料、月額保証料の3本柱で構成される。新規契約が積み上がるほど、その後の更新保証料・月額保証料が厚くなり、収益の安定度が増す。株価は2024年8月5日のIPO後安値 ¥678 を底に、まず¥800〜900台で推移した後、2024年11月14日のFY9/24本決算(売上+12%、営業利益+43%)をきっかけにレンジを上抜けた。2025年春には ¥1,743 まで上昇し、8月18日には ¥3,485 の高値を付けた。安値からの上昇率は +414% である。背景にあったのは、FY9/25の業績変化だった。売上は+16.0%の¥3,737M、営業利益は +81.5%の¥759M まで伸びた。更新保証料・月額保証料の積み上がりが効き始め、販管費の増加を上回る形で利益率が改善した。ROCEも平均投下資本ベースで 25.6%(FY9/24)から32.3%(FY9/25) へ上昇した。高値時の翌12ヶ月EV/EBITは約 8.8倍 で、市場はFY9/25の利益水準を新しい巡航速度として織り込みに行っていた。
02 · 反転局面 反転の起点は 2025年11月14日 である。FY9/25本決算では営業利益が ¥759M(+81.5%)、全社ベースの営業利益率が 20.3%、セグメント加重ベースでは ~28% まで上がった。一方で、同時に示されたFY9/26会社計画は、売上+13.3%の¥4,233M、営業利益+16.4%の¥883Mだった。営業利益の伸びが+81.5%から+16.4%へ落ちるため、8月高値時の評価倍率は説明しにくくなった。減速の理由は大きく2つある。1つ目は、FY9/25の利益急伸が、更新保証料・月額保証料の積み上がりが初回保証料中心の収益構造を押し上げた局面だったこと。これは重要な変化だが、毎年同じ幅で起こるものではない。2つ目は、FY9/26計画にCloud Insureの改修投資(総額¥306M、2027年11月まで)の償却費、年 ¥40〜60M(推定) と、名古屋支店など主要都市での人員投資が織り込まれていることだ。さらに、H1 FY9/26の初回保証契約件数は 15,145件、前年同期比-1.4% と伸びていない。更新保証料を積み上げるには新規契約の流入が必要だが、その入口が足元では鈍い。株価は12月の定時株主総会前後に¥2,200〜2,400台へ下がり、その水準でいったん下値を固めた。市場は、コスト増を伴う中で利益成長が巡航速度に戻る可能性を織り込んだ。
03 · 現時点 H1 FY9/26は 2026年5月14日 に開示された。売上は ¥2,064M(+15.6%)、営業利益は ¥590M(+52.5%)、当期純利益は ¥417M(+53.3%) だった。営業利益率は 28.6% で、通期会社計画の20.9%を7.7pp上回る。H1だけで通期売上計画の 49%、営業利益計画の 67% まで進捗している。増分営業利益率(Δ営業利益/Δ売上高)はH1で 0.73 と、FY9/24からFY9/25にかけての0.66をやや上回った。与信面も悪化していない。求償債権発生率は6.4%から 6.2% へ、回収率は98.8%から 99.1% へ改善した。件数を無理に追わず、採算と回収可能性を見ながら契約を選んでいる可能性がある。財務面では、自己資本比率が 51.4%、現預金が ¥2,760M、ネットキャッシュが ¥2,265M まで積み上がっている。これは時価総額¥6,939Mの 33% に相当する。FY9/26配当は ¥22 (前期¥19)へ増配予定だが、配当性向はなお ~10% である。自己株式取得の決議も、配当方針を見直すコメントもまだない。今後4四半期で見るべき点は、H1の高い増分利益率がH2も続くか、初回保証契約件数が名古屋支店や新規取引先で戻るか、そしてROCE 32%・ネットキャッシュ¥22.6億の会社として、11月のFY9/26決算で資本政策を一段踏み込んで示すかである。
市場が見ている3つの論点
直近の四半期決算とIR説明会の質疑を踏まえると、論点は三つある。高い利益成長は続くのか、新規契約の鈍化は将来の更新料に響くのか、そして株主還元を広げるのかである。
資本効率を左右する3つの注目点
開示と資本政策に関する三つの評価材料を挙げる。いずれも利益がさらに増えるのを待たずに、評価を変え得る。
3つのシナリオ
今後4四半期を想定した3つのシナリオ。開示、業績、資本政策の組み合わせごとに、どの程度の評価があり得るかを整理したものであり、いずれも予測ではなく分析上の目安である。
- H2 FY9/26の営業利益率が20%を下回り、通期では会社計画の20.9%近辺に着地。
- FY9/26の初回保証契約件数がFY9/25の33,749件を下回り、2年続けて伸び悩む。
- FY9/26決算で配当性向10%目標を維持し、自己株式取得の決議もなく、ネットキャッシュが¥3bnを超える。
- 関連当事者取引の内訳、四半期ごとの初回保証契約件数の内訳がいずれも開示されない。
- 求償債権発生率が6.5%超へ悪化し、更新保証料のストックが与信悪化の影響を受ける。
弱気レンジの¥1,800〜2,100は、FY26翌12ヶ月EV/EBITで ~4.4〜5.3倍 に相当する。国内の類似クレジットビジネスの非公開市場で想定される7〜10倍を明確に下回る水準であり、更新保証料の持続性に市場が強い割安評価をかけ続ける場合に限られる。
- Q3 FY9/26(2026年8月)で営業利益率≥25%・売上成長率≥14%、FY26通期営業利益≥¥950M(会社計画比+8%)。
- FY9/26の初回保証契約件数がFY9/25比で横ばい〜微増(名古屋支店の立ち上がりと新規取引先が寄与)。
- FY9/26決算で配当性向目標の引き上げ、または初の自己株式取得のいずれかを発表。
- FY9/26有価証券報告書で関連当事者取引の内訳がより詳しく開示される。
- Q3 FY9/26で営業利益率≥27%・売上成長率≥15%、FY26通期営業利益≥¥1,050M(会社計画比+19%)となり、上方修正を発表。
- 初回保証契約件数が前年同期比+5%以上に回復(名古屋支店の立ち上がり、介護費・入院費保証など隣接領域が寄与)。
- FY9/26決算で配当性向目標を≥25%へ引き上げ、総還元方針も併せて示す。
- FY9/26有価証券報告書で、関連当事者取引の複数年推移と依存度低下の方針を示す。
- 求償債権発生率が≤6.0%へさらに改善し、回収率99%超を維持。
強気シナリオ上限の¥4,200は2025年8月高値の¥3,485を上回り、翌12ヶ月EV/EBITで~9〜10倍への再評価を織り込む水準である。これを超えるには、介護費・入院費保証などの隣接領域が第二の成長源になるという複数年の見方が必要になるが、それは今回の4四半期シナリオの外側にある。
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