株式会社図研
この2年間、株価を動かしてきたものは何か
2024年8月5日の安値¥3,115から2025年7月17日の高値¥5,820まで、株価は約11カ月で+87%上昇した。背景には、利益率改善を示す開示、還元方針の見直し、3カ年中計の提示がある。その後は約9カ月で3割程度調整しており、次の評価を決める論点は「バリュエーション」「配当・自己株買いの下支え」「MBSEの収益化」の3点となる。
01 · 上昇局面 図研は、電気設計者が描いた回路図を、実際に動くプリント基板や自動車内のワイヤハーネス、防衛・航空宇宙分野のシステム設計へ落とし込むソフトウェアを提供している。製品群は五つある。日本の完成品メーカーに加え、2006年にSim-Teamを買収して以降、E3.seriesを採用する欧州の産業機器・鉄道車両メーカーにも深く入り込んできた。顧客が長年蓄積した設計データは簡単に他社製品へ移せないため、創業50年の図研には安定した顧客基盤がある。収益は三段階で積み上がる。まずCR-8000またはE3.seriesのライセンスを販売し、その後は毎年更新される保守サービス料を受け取る。さらにDSシリーズで、製品の世代をまたいで設計データを管理する。クライアントサービスはFY3/26売上の42.9%に達し、ライセンス売上の+3.5%を上回る+9.1%で伸びた。期末受注残は¥262.2億(+25%)と、今後およそ半年分の売上に相当する。株価が2024年8月5日の¥3,115から2025年7月17日の¥5,820へ上昇した背景には、三つの開示があった。2024年11月にDOEを5%以上とする株主還元方針を導入したこと、2025年5月のFY3/25本決算で、売上+5.9%に対して営業利益が+12.4%となり、保守サービスと日本事業の構成比上昇による採算改善を示したこと、そして同時に¥30億の自己株買い枠と、FY3/28までに売上¥490億・営業利益¥74億を目指す3カ年中計を発表したことである。
02 · 下落局面 転機は2025年8月6日だった。Q1 FY3/26は売上¥91.19億(+1.1%)、営業利益¥8.27億(−3.4%)で、一見すると減速した。ただし、中期計画は売上の本格的な伸びを2年目・3年目に見込んでおり、Q1の人件費増も、MBSEの開発費を先行して計上した結果だった。株価は7月17日の高値¥5,820から、2026年1月下旬には¥4,500まで23%下落した。しかし、この間の開示は下期に業績が伸びるという会社の説明を支えていた。2025年10月にはArtisan Partnersが8.11%の大量保有報告書を提出し、主要な海外株主となった。同年11月には創業50周年の記念配当¥100を加え、FY3/26の1株配当は合計¥200となった。2025年12月の中計進捗説明会では、戦略を「半導体」「自律AI」「モデルベース・システムズエンジニアリング」の三つに整理し、次世代有機パネル実装に向けたレゾナック主導のJOINT3コンソーシアムへの参加も公表した。それでも市場は、費用を先に計上したことを中期計画の実行力への懸念と受け止め、受注残が増え続けるなかでも株価は低迷した。
03 · 現在地 2026年5月14日に発表したFY3/26決算は、業績が下期に伸びるという会社の説明を裏づけた。売上は¥431.01億(+5.8%)、営業利益は¥58.65億(+8.8%)で、会社予想¥56億を4.7%上回った。持分法適用会社のビジネスエンジニアリング社から過去最高の¥9億の利益を取り込んだことで、経常利益は¥71.34億(+20.2%)となった。グループ営業利益率は40bp上昇して13.6%。FY3/27は売上+6.7%に対し、営業利益はFY3/26の+8.8%から+14.2%へ伸びを速める計画で、普通配当もFY3/25の¥100から50%増の¥150とした。2025年5月に決議した¥30億の自己株買いは2026年1月下旬に完了した。FY3/25の¥25億に続き、2年連続で上限近くまで買い付けたことになる。過去12カ月の総還元率は純利益の134%に達し、自己株比率は5.3%となった。今後4四半期で確認すべき点は三つある。FY3/27の営業利益予想¥67億は、中計最終年度の¥74億に照らして保守的なのか。GENESYSを中心とするMBSEの売上がFY3/28目標の¥30億へ増えるなか、FY3/23から4年連続で赤字の米州事業は計画期間中に黒字化するのか。そして、2年続けた自己株買いでもなお残る¥361億の現金をどう使うのかである。
投資家の見方が分かれる3つの論点
直近の決算とFY3/26決算説明会の質疑を踏まえ、株価評価を左右する三つの論点を整理する。
評価を変え得る3つの開示・資本政策
利益が会社予想を上回らなくても、開示と資本政策を改善すれば評価を変えられる。評価を左右する三つの材料を挙げる。
今後4四半期のシナリオ
今後4四半期に考えられる展開を、前提の異なる三つのシナリオに分けた。将来を一つに予想するのではなく、開示と業績の組み合わせから評価レンジを考えるための試算である。
- Q3 FY3/27(2027年2月)でグループ営業利益率 13%未満 ・売上成長率 +5%未満。
- FY3/27アメリカセグメント営業赤字が¥-4億超、中計中間時点のMBSE売上は¥20億未満で開示。
- FY3/27本決算でDOE下限は5%据え置き、追加の自己株買い認可なし、キャッシュは ¥380億 を突破。
- B-EN-Gの持分法利益が¥9億から¥5億近辺へ正常化し、経常利益成長率がマイナスに転じる。
- FY3/28中計目標は維持されるが、後半傾斜の ¥74億 営業利益目標に対し明示的な留保条件が付される。
弱気帯¥3,600–¥4,200はFY3/27予想ベースEV/EBITで ~7–9x を前提とする。唯一の国内上場ソフトウェア同業他社であるビジネスエンジニアリング(4828)の~7.2xと同水準で、2024年2月にRenesasがAltiumを買収した際のJP非公開買収帯7–10xに並ぶ。
- FY3/27で売上 ¥460億 ±2%、営業利益 ¥67億 ±5%、純利益 ¥57億 ±5%。
- FY3/27普通配当¥150支払、FY3/27本決算で追加の~¥30億自己株買い認可。
- アメリカセグメント営業赤字が ¥-2億 または損益分岐点へさらに縮小、MBSE売上は ¥25億 を辿る。
- アジアセグメントが売上¥24億で営業利益率29%を維持、欧州は10%利益率で安定。
- (MBSE顧客数、中計構成要素別売上表、DOE 7%への段階引上げ)のうち少なくとも1つがFY3/27期中に実現。
- FY3/27営業利益が ¥67億 会社計画を5%以上上振れ、グループ営業利益率が 15% 以上で着地。
- FY3/27本決算で取締役会がDOE 7% 下値の目安または年間 ¥30億超 の経常的な自己株買いを認可。
- 3DICプログラムが公表ベースの顧客獲得を実現(レゾナックJOINT3の商用化、またはIBM AI向けチップ実装の商用ライセンス)。
- アメリカセグメントがFY3/27期中に営業損益分岐点へ到達、中計中間時点のMBSE売上が ¥27億 以上で開示。
- FY3/28中計目標 ¥74億 がFY3/27までの進捗から達成可能な範囲に入り、H1 FY3/28の実績で後半に利益が伸びる計画の最終段階が見えてくる。
強気帯¥5,400–¥6,400はFY3/27予想ベースEV/EBITで ~11–14x を前提とする。唯一の国内上場同業他社(4828)の~7.2xを上回るが、Cadence・Synopsysなど世界のEDA同業他社が取引される17–22xはなお大きく下回る。強気上限の試算評価倍率は現在の 9.8x より2段階ほど高い水準にある。
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