東証グロース · 4475 · 9月期 HENNGE株式会社

HENNGE K.K.

情報・通信業 · クラウドセキュリティ SaaS
直近終値
¥1,0162026年5月12日
−46% 25年8月の高値から · +11% 3月の安値から
時価総額 / EV
¥330億 / EV ¥260億
ネットキャッシュ ¥73億(時価総額の22%)· 2025年12月に9.1億円自社株買い
EV / EBIT · 翌12ヶ月
12.5
3年中央値 ~22倍 / 同業中央値 ~14倍 · §14近接
ROCE · TTM
約48%
FY9/23 34% → FY9/25 48% · 3年間で拡大基調
営業利益率 · 連結
16% · 連結
FY26計画16% · 売上総利益率86.8%(上昇傾向)
自己資本比率(§14.5調整後)
63% 調整後 / 36% 開示
契約負債 47億円 = 総資産の43.6% · SaaS会計上の慣行
01 · 株価動向

この2年間、株価を動かしてきたものは何か

2024年5月に1,000円前後だった株価は、2025年8月に1,899円まで買われました。しかし、その後は半年ほどで上昇分の大半を失っています。きっかけは業績悪化ではなく、2025年11月の翌期計画と、その後2四半期で確認されたARR成長率の鈍化でした。

4475 vs TOPIX · 24ヶ月 · 日次ローソク足 + 出来高
高値 ¥1,899 · 2025-08-14 安値 ¥913 · 2026-03-13 直近 ¥1,016
HENNGE · 日次ローソク足 60日移動平均 TOPIX 連動 ETF(1308.T、基準合わせ) 出来高

01 · 上昇 2024年春の時点で、HENNGEは「国内企業向けのID管理・メールセキュリティSaaS」として見られていました。事業は堅いが、成長株として大きなプレミアムを付けるには材料が足りない、という評価です。その見方が変わり始めたのは、FY24実績とFY25の四半期決算がそろって強かったためです。FY24は売上+25%、営業利益+71%。FY25に入っても、HENNGE OneのARRは100億円台が見え、BasicからProへの移行も進んでいるように見えました。契約企業数は約3,500社、売上総利益率は84.8%から86.4%へ上昇、月次グロスリベニューチャーンは0.26%まで低下しました。投資家にとっては、解約が少なく、粗利率が高く、既存顧客へのアップセル余地があるSaaS企業に見えたわけです。こうした期待が積み上がり、株価は2025年8月14日に1,899円の高値を付けました。

02 · 反転 流れが変わったのは2025年11月です。FY25実績は売上+30.6%、営業利益+71.4%、ARR104億円と良好でした。一方で、同時に出たFY26計画は、売上+17.5%に対して営業利益率16.0%と、FY25実績の16.4%からほぼ横ばいでした。会社は、Endpoint & Managed Security、ドメイン保護、米国JVなど、隣接領域への投資を増やす局面だと説明しました。中長期では必要な投資でも、短期の投資家には「成長率が落ちる一方で費用が増える」計画に見えます。実際、2026年2月のQ1ではARR成長率が+15.5%へ低下し、2026年5月のQ2では+14.7%となりました。さらにQ2では、新規顧客が中堅・中小企業寄りで契約企業あたりの平均ユーザー数が下がったこと、一部の大手既存顧客がProではなく単機能プランを選んだことも示されました。市場はここで、Pro化によるARPU上昇ストーリーをいったん割り引きました。株価は2026年3月13日に913円まで下落し、8月高値から半値強の調整となりました。

03 · 現在の位置 株価下落局面で、会社は自社株買いも実施しました。2025年11月21日に最大70万株・上限11.9億円の取得を決議し、12月22日までに70万株を9.09988億円、平均約1,300円で取得しています。目的は、株式報酬や将来の株式対価M&Aへの備え、希薄化の抑制、資本効率の向上です。ただし、市場の評価を反転させるには至りませんでした。直近終値1,016円(2026年5月12日)は3月安値からは戻ったものの、8月高値には遠い水準です。重要なのは、事業の質が崩れたわけではない点です。ROCEは約48%、売上総利益率は86.8%、FCF利回りは約8%あります。問題は、これまで支払われていた高いマルチプルを、市場がまだ戻していないことです。翌12ヶ月EV/EBITは約12.5倍で、8月高値時の約22倍を大きく下回ります。ここからの評価は、ARR成長率、Pro化、投資先行費用、資本配分の説明で決まります。

02 · 論点

市場が確認したい3点

足元の市場が見ているポイントは3つです。いずれも、業績そのものよりも「どの程度のSaaSプレミアムを認めるか」に関わる論点です。

論点 01 · ARR成長率の減速
ARR成長率+14.7%を一時的な踊り場と見るか、巡航速度の低下と見るか。
強気 強気の見方は、ARR成長率だけを見ると鈍化しているものの、基礎KPIはまだ崩れていないというものです。Q2 FY26の顧客数は3,731社(前年同期比+17.3%)、ユーザー数は296万人(+11.9%)、Pro構成比は一四半期で18%から20%へ上がり、月次グロスリベニューチャーンも0.45%から0.26%へ改善しました。Q4 FY26でARR成長率が+18%以上へ戻れば、H1の鈍化は前年の高成長の反動と説明しやすくなります。
弱気 弱気の見方は、成長の質が変わったのではないかというものです。新規獲得は中堅・中小企業に寄り、契約あたりユーザー数は下がっています。既存大手の一部はProではなく単機能を選び、広告宣伝費の伸びは売上成長率を大きく上回っています。Q4 FY26でARR成長率が+12%以下まで落ちれば、単なる基準効果ではなく、構造的な減速と受け止められます。
論点 02 · 利益率の抑制
FY26営業利益率16.0%計画は成長投資の前倒しか、収益性の上限を示しているのか。
強気 強気の見方は、収益力そのものは高いという点です。売上総利益率は86.8%、設備投資は売上の0.7%、有利子負債はほぼなく、ROCEは約48%です。H1の営業利益率は20.7%で、通期計画16.0%との差は、ブランディング、米国JV、新製品立ち上げ費用を先に入れているためと読めます。FY26実績が17%以上で着地すれば、投資をしながらも利益規律を維持できる会社だと評価しやすくなります。
弱気 弱気の見方は、利益率に外部要因の圧力がかかるという点です。Microsoft E5にはDefender for Office 365やEntra IDが含まれ、HENNGE OneのEmail DLP・ID領域と重なります。またAWS関連費用はドル建ての比率が高く、円安は粗利率を押し下げます。FY26営業利益率が14%未満へ下方修正される場合、市場は投資前倒しではなく、収益性の天井として受け止める可能性があります。
論点 03 · 資本配分
9.1億円の自社株買いは資本効率改善の意思表示か、タイミングを誤った資本配分か。
強気 強気の見方は、会社がバランスシートを使い始めた点を評価します。2025年11〜12月の自社株買いは9.0998億円・70万株で、自己株式控除後の発行済株式数の2.2%に相当します。株式報酬による希薄化を抑える意味合いもあり、手元資金をただ積み上げるだけではないというメッセージになりました。FY26通期決算で追加の自社株買い、または継続的な還元方針が示されれば、資本配分に対する信頼は高まりやすくなります。
弱気 弱気の見方は、買った水準と説明の曖昧さを問題にします。取得は2025年11月26日から12月19日にかけて、平均約1,300円で行われました。当時は実績PERで約38倍、ARR成長率はすでに鈍化していました。高ROCEの事業に再投資できる会社が、なぜその価格で自社株を買うのか。ここが説明されないと、株主還元ではなく、資本配分の規律に対する疑問として残ります。FY26通期決算で追加方針が示されず、現金だけが積み上がる場合、この論点は再び意識されます。
03 · 評価改善

IRと資本政策でできる3つの打ち手

株価を動かすのは業績だけではありません。投資家が不安に思っている点を、KPIと資本政策で説明できれば、評価倍率は変わり得ます。HENNGEで優先度が高い打ち手は3つです。

打ち手 01 · 開示
モジュール別ARR · ID / DLP / セキュリティ / Endpoint / ドメイン保護
HENNGE One ARRの構成(H1 FY26 開示ベース)
開示ARR
¥119
ID層(未開示)
不透明
DLP / セキュリティ
不透明
Endpoint / ドメイン保護
立ち上げ期
単一セグメント開示の下で多モジュール構成が見えない
HENNGE Oneは連結売上の94.5%を占めますが、投資家から見ると中身がまだ粗い開示です。ID、DLP、セキュリティ、Endpoint、ドメイン保護のARRを分けて示せば、どの領域が伸び、どの領域がMicrosoftとの競合を受けているのかを判断できます。Pro化の実態、新製品の立ち上がり、既存顧客へのクロスセルを同じ表で追えるようになれば、単なる「ARR成長率の鈍化」ではなく、成長の質を説明できます。
経営側のコスト
KPI表1点
最短の実行時期
Q3 FY26決算 · 2026年8月
打ち手 02 · 開示
Pro絶対ARR + 既存Basic→Proアップグレード率 + コホート熟成カーブ
Proプランの構成比推移(HENNGE One ARRに対する%)
FY24 Pro比率
~16%
FY25 Pro比率
~18%
H1 FY26 Pro比率
20%
Pro比率は四半期で200bp上昇 — 焦点は絶対水準とアップグレード率
Pro比率はQ2 FY26で18%から20%へ上がりました。ただ、比率だけでは十分ではありません。投資家が知りたいのは、Proの絶対ARR、既存Basic顧客のPro移行率、導入後何ヶ月でアップグレードが起きるのかです。これらが示されれば、FY29 ARR 200億円という目標が、新規獲得だけでなく既存顧客のアップセルでどこまで説明できるかを検証できます。IR上は、最も費用対効果の高い追加開示です。
経営側のコスト
スライド1枚
最短の実行時期
Q3 FY26決算 · 2026年8月
打ち手 03 · 資本政策
自社株買いを希薄化相殺ないしフォーミュラ型に再定義
フォーミュラ型自社株買い(イメージ)
現状
機会主義的
2025年12月の執行
PER約38倍
フォーミュラ型代案
EV/EBIT 12倍以下
ピークではなく、適正な評価水準で機械的に買い付ける
2025年12月の自社株買いは、平均約1,300円で9.1億円を投じたため、結果的には株価下落前の高い水準での取得になりました。だからこそ、次に必要なのは「なぜ、どの水準で買うのか」のルールです。株式報酬の希薄化を毎年機械的に相殺するのか、EV/EBITなどの評価指標が一定水準を下回った時だけ買うのかを明示すれば、資本配分のメッセージはかなり分かりやすくなります。プライム市場への移行準備と合わせて説明できれば、ガバナンス、流動性、株主還元を一体で評価してもらえる可能性があります。
経営側のコスト
取締役会決議
最短の実行時期
FY26通期決算 · 2026年11月
04 · バリュエーション

向こう4四半期の見方

今後4四半期について、3つの見方を置きます。これは目標株価ではなく、投資家がどの条件で評価倍率を上げ下げするかを整理するためのシナリオです。

弱気ケース
¥800 〜 ¥900
−21% 〜 −11%
想定マルチプル · EV/EBIT 約10〜11倍(翌12ヶ月)
ARR成長率の鈍化が一時的ではないと見なされ、不透明性ディスカウントが残るケースです。
これが起こる条件
  • Q4 FY26のARR成長率が前年同期比+12%以下に着地する。
  • ブランディング投資が売上に結びつかず、FY26営業利益率が14%以下へ下方修正される。
  • モジュール別ARRの開示なし、FY26通期決算で2回目の自社株買い枠も発表なし。
  • Pro比率が21〜22%で停滞(FY29 ARR 200億円達成に必要な25%以上には届かず)。

800円台は買収プレミアムを前提にした水準ではありません。ARR成長率と利益率への不信感から、公開市場の評価倍率がさらに切り下がるケースです。

中立ケース
¥1,000 〜 ¥1,200
0% 〜 +18%
想定マルチプル · EV/EBIT 約12〜14倍(翌12ヶ月)
ARR成長率は二桁台半ばで踏みとどまり、利益率も会社計画内で収まり、開示・資本政策の打ち手が1つ前進するケースです。
これが起こる条件
  • FY26を通じてARR成長率が+14〜18%のレンジに収まる。
  • FY26営業利益率が会社計画の範囲内(15〜17%)で着地する。
  • Q4 FY26までに3つの打ち手のうち1つが前進する(新製品立ち上げを踏まえると、モジュール別ARR開示の可能性が最も高い)。
  • FY26通期決算の資本配分方針で、2回目の自社株買いか持続的な株主還元方針への言及がある。
強気ケース
¥1,400 〜 ¥1,700
+38% 〜 +67%
想定マルチプル · EV/EBIT 約16〜18倍(翌12ヶ月)
3つの打ち手のうち2つが実行され、Pro化と新製品クロスセルでARR成長率が再加速するケースです。
これが起こる条件
  • Q3/Q4のARR成長率が、Endpointとドメイン保護のクロスセルで前年同期比+20%に再加速する。
  • Pro比率が25%以上に上昇し、絶対ARRも開示される。
  • モジュール別ARRの開示が始まる。
  • 資本配分方針が明示される(例:年間FCFの一定割合を還元、EV/EBIT水準に応じた自社株買い)。

強気ケースでも、2025年8月高値の1,899円までは見ていません。当時のような22倍前後のEV/EBITを取り戻すには、ARR成長率の明確な再加速に加え、米国JVを含む隣接領域の成功が必要です。これは4四半期で確認するには早い論点です。

事業別評価 · HENNGE ONE
クラウドID・DLP・セキュリティSaaS · 単一セグメント
H1 FY26売上(年換算)116億円
セグメント営業利益率(H1)20.7%
想定EBIT約24億円
同業マルチプル(4776, 4477, 3923)EV/Sales 8〜12倍
中位想定EV: 約800億円(EV/Sales 7倍)
事業別評価 · 隣接事業
Endpoint + ドメイン保護 + 米国JV · オプション価値
HENNGE Endpoint & Managed Security2026年3月リリース
ドメイン保護モジュール2026年10月以降予定
HENNGE Inc.(米国JV、2025年4月〜)赤字継続
同業マルチプル(NET, OKTA, ZS)単一製品比較不可
中位想定EV: オプション価値として数値化せず
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