この2年間、株価を動かしてきたものは何か
2024年5月に1,000円前後だった株価は、2025年8月に1,899円まで買われました。しかし、その後は半年ほどで上昇分の大半を失っています。きっかけは業績悪化ではなく、2025年11月の翌期計画と、その後2四半期で確認されたARR成長率の鈍化でした。
01 · 上昇 2024年春の時点で、HENNGEは「国内企業向けのID管理・メールセキュリティSaaS」として見られていました。事業は堅いが、成長株として大きなプレミアムを付けるには材料が足りない、という評価です。その見方が変わり始めたのは、FY24実績とFY25の四半期決算がそろって強かったためです。FY24は売上+25%、営業利益+71%。FY25に入っても、HENNGE OneのARRは100億円台が見え、BasicからProへの移行も進んでいるように見えました。契約企業数は約3,500社、売上総利益率は84.8%から86.4%へ上昇、月次グロスリベニューチャーンは0.26%まで低下しました。投資家にとっては、解約が少なく、粗利率が高く、既存顧客へのアップセル余地があるSaaS企業に見えたわけです。こうした期待が積み上がり、株価は2025年8月14日に1,899円の高値を付けました。
02 · 反転 流れが変わったのは2025年11月です。FY25実績は売上+30.6%、営業利益+71.4%、ARR104億円と良好でした。一方で、同時に出たFY26計画は、売上+17.5%に対して営業利益率16.0%と、FY25実績の16.4%からほぼ横ばいでした。会社は、Endpoint & Managed Security、ドメイン保護、米国JVなど、隣接領域への投資を増やす局面だと説明しました。中長期では必要な投資でも、短期の投資家には「成長率が落ちる一方で費用が増える」計画に見えます。実際、2026年2月のQ1ではARR成長率が+15.5%へ低下し、2026年5月のQ2では+14.7%となりました。さらにQ2では、新規顧客が中堅・中小企業寄りで契約企業あたりの平均ユーザー数が下がったこと、一部の大手既存顧客がProではなく単機能プランを選んだことも示されました。市場はここで、Pro化によるARPU上昇ストーリーをいったん割り引きました。株価は2026年3月13日に913円まで下落し、8月高値から半値強の調整となりました。
03 · 現在の位置 株価下落局面で、会社は自社株買いも実施しました。2025年11月21日に最大70万株・上限11.9億円の取得を決議し、12月22日までに70万株を9.09988億円、平均約1,300円で取得しています。目的は、株式報酬や将来の株式対価M&Aへの備え、希薄化の抑制、資本効率の向上です。ただし、市場の評価を反転させるには至りませんでした。直近終値1,016円(2026年5月12日)は3月安値からは戻ったものの、8月高値には遠い水準です。重要なのは、事業の質が崩れたわけではない点です。ROCEは約48%、売上総利益率は86.8%、FCF利回りは約8%あります。問題は、これまで支払われていた高いマルチプルを、市場がまだ戻していないことです。翌12ヶ月EV/EBITは約12.5倍で、8月高値時の約22倍を大きく下回ります。ここからの評価は、ARR成長率、Pro化、投資先行費用、資本配分の説明で決まります。
市場が確認したい3点
足元の市場が見ているポイントは3つです。いずれも、業績そのものよりも「どの程度のSaaSプレミアムを認めるか」に関わる論点です。
IRと資本政策でできる3つの打ち手
株価を動かすのは業績だけではありません。投資家が不安に思っている点を、KPIと資本政策で説明できれば、評価倍率は変わり得ます。HENNGEで優先度が高い打ち手は3つです。
向こう4四半期の見方
今後4四半期について、3つの見方を置きます。これは目標株価ではなく、投資家がどの条件で評価倍率を上げ下げするかを整理するためのシナリオです。
- Q4 FY26のARR成長率が前年同期比+12%以下に着地する。
- ブランディング投資が売上に結びつかず、FY26営業利益率が14%以下へ下方修正される。
- モジュール別ARRの開示なし、FY26通期決算で2回目の自社株買い枠も発表なし。
- Pro比率が21〜22%で停滞(FY29 ARR 200億円達成に必要な25%以上には届かず)。
800円台は買収プレミアムを前提にした水準ではありません。ARR成長率と利益率への不信感から、公開市場の評価倍率がさらに切り下がるケースです。
- FY26を通じてARR成長率が+14〜18%のレンジに収まる。
- FY26営業利益率が会社計画の範囲内(15〜17%)で着地する。
- Q4 FY26までに3つの打ち手のうち1つが前進する(新製品立ち上げを踏まえると、モジュール別ARR開示の可能性が最も高い)。
- FY26通期決算の資本配分方針で、2回目の自社株買いか持続的な株主還元方針への言及がある。
- Q3/Q4のARR成長率が、Endpointとドメイン保護のクロスセルで前年同期比+20%に再加速する。
- Pro比率が25%以上に上昇し、絶対ARRも開示される。
- モジュール別ARRの開示が始まる。
- 資本配分方針が明示される(例:年間FCFの一定割合を還元、EV/EBIT水準に応じた自社株買い)。
強気ケースでも、2025年8月高値の1,899円までは見ていません。当時のような22倍前後のEV/EBITを取り戻すには、ARR成長率の明確な再加速に加え、米国JVを含む隣接領域の成功が必要です。これは4四半期で確認するには早い論点です。
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