銘柄レポート

銘柄レポート東証スタンダード · 6356 · 3月決算

日本ギア工業は、 バルブ・アクチュエータの 販売後も最長50年にわたり保守を担う

日本ギア工業は重要バルブを動かすアクチュエータを販売し、過去に販売した歯車装置や製品を何十年も保守する。工事事業の営業利益率は32.5%で、ネットキャッシュ控除後の事業価値は会社予想営業利益の4.69倍だ。

企業

NIPPON GEAR CO., LTD.

重要バルブを動かすアクチュエータと歯車。納入後も数十年にわたり、点検、診断、部品交換、修理を担う。

終値
¥1,299
2026年8月21日 · 3月の最高終値比 −41.0%
時価総額 / 企業価値(EV)
¥184.9億円
EV 117.3億円
EV / 営業利益 · 27/3期
4.69倍
実績 4.77倍
ROCE · 実績
17.3%
3年 16.8–19.4%
営業利益率 · 全社
24.9%
工事事業 32.5%
ネットキャッシュ / 時価総額
36.6%
成和が39.7%を支配
INTRODUCTION

日本ギア工業の主力製品は、バルブ・アクチュエータである。電動モーターと歯車を組み合わせ、制御システムからの指示に応じて産業用バルブを開閉し、その開度を調整する。アクチュエータが故障すれば、発電所、製油所、化学プラント、上下水道では、配管を流れる蒸気、燃料、薬品、水を遠隔または自動で制御できなくなる。

同社はジャッキ、増減速機、歯車も製造する。2026年3月期の製品事業は、売上高75.1億円、営業利益16.9億円となった。

製品を納めて終わりではない。日本ギア工業は、過去に販売した歯車装置や製品の点検、診断、修理、改造を「工事事業」として開示する。2026年3月期の工事事業は、売上高23.7億円、営業利益7.7億円となった。03

2026年3月期の事業別採算
製品事業売上高 75.1億円営業利益 16.9億円営業利益率22.4% · 売上高構成比76.0%
工事事業売上高 23.7億円営業利益 7.7億円営業利益率32.5% · 全社営業利益の31.4%

売上高の大半を占めるのは製品事業だが、過去に販売した機器の保守も32.5%の利益率で、全社営業利益の約3分の1を稼ぐ。2026年8月21日の終値1,299円を基準にすると、ネットキャッシュ控除後の事業価値は2027年3月期会社予想営業利益の4.69倍となる。

5年間の実績

売上高以上に、

2022年3月期から2026年3月期までに、売上高は75.7億円から98.8億円へ増加した。同じ期間に、全社営業利益は1.2億円から24.6億円へ伸び、ネットキャッシュは2倍超の60.5億円に達した。自己株式控除後の株式数は約1,424万株でほぼ変わらなかった。07151617

10億円単位(利益率と株式数を除く)2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期2026年3月期
売上高7.577.529.629.569.88
全社営業利益0.120.962.132.112.46
製品事業営業利益率1.2%11.3%17.4%17.9%22.4%
工事事業営業利益率3.2%17.6%35.5%34.7%32.5%
FCF(営業CF-設備投資)0.710.980.420.701.79
ネットキャッシュ2.873.794.114.396.05
自己株式控除後の株式数・百万株14.23814.23814.23714.23714.237

業績で上昇した株価を、原子力政策への期待が2,200円まで押し上げた

最初に株価を押し上げたのは採算の改善だった。その後は米国の原子力案件への期待が膨らみ、開示済みの受注だけでは説明できない水準まで買われた。

6356 対 TOPIX · 24カ月 · 日足・出来高
最高終値 ¥2,200 · 3月9日高値後の最安終値 ¥1,177 · 4月7日終値 ¥1,299
日本ギア工業60日移動平均TOPIX・相対指数出来高
¥534

低収益の一般的な機械メーカーとして評価されていた。

¥850

製品事業の採算改善が、市場の見方を変え始めた。

¥1,337

対米投資第2弾の原発案件報道が、原子力関連株としての期待に火を付けた。

¥1,299

最高終値から41%安いが、2年前より143.3%高い。

2024年7月31日の終値は534円だった。その後もしばらく500円を下回る水準で推移したが、その間に製品事業の採算は着実に改善していた。

市場の評価が変わり始めたのは2026年3月期である。2025年3月期決算を発表した2025年5月13日の終値は466円だった。7月31日には629円、2026年3月期中間決算を発表した10月31日には850円まで上昇した。低収益の一般的な機械メーカーとして見ることが難しくなったためである。

次の上昇は、業績ではなく原子力政策がきっかけとなった。2月19日午前10時21分、みんかぶ配信は、対米投資第2弾で原子力発電所や次世代炉が検討されているというNHK報道を取り上げ、日本ギア工業がストップ高買い気配だと伝えた。11同日の終値は前日比15.9%高の1,092円、翌20日は22.4%高の1,337円となり、3月9日に最高終値2,200円を付けた。

3月19日、日米両政府は、テネシー州とアラバマ州の小型モジュール炉に最大400億ドルを投じる計画を確認した。12これを受け、原子力発電所向けバルブアクチュエータの需要が増えるとの期待が株価に織り込まれた。その後、日本ギア工業の株価は4月7日に高値後の最安終値1,177円まで下落した。

会社の業績は堅調だった。2026年3月期営業利益は前期比16.7%増の24.6億円となった。2027年3月期第1四半期の受注高は前年同期比12.1%増え、6月末の受注残高は75.0億円に達した。04現在の1,299円には、株価を534円から押し上げた採算改善への評価が残る一方、2,200円まで買われたときの政策期待は大半が剥落した。再評価の条件は、製品事業の利益率を20%前後に保てるかと、67.7億円のネットキャッシュの活用方針が明確になることである。

アクチュエータを1台納めると、30~50年にわたり定期保守が続く

一度販売した後も、点検、診断、部品交換、分解整備、改造が稼働期間を通じて続く。

納入後も続く保守の循環
01アクチュエータを設置累計30万台を超える電動アクチュエータに、新たな一台が加わる。
02決まった周期で点検毎年の基本点検、3~5年ごとの詳細点検、7~10年ごとの工場整備。
03摩耗を計測MACは作動トルク、eMACは電流、MOVDASは稼働中のトルク波形を調べる。
04修理と部品交換メーカー部品を供給し、駆動部を修理して性能試験を行う。
05使用期間を延ばす継続的な保守により30~50年の使用が可能になる。
30~50年保守した製品の使用期間
23.7億円26/3期 工事事業売上高
32.5%工事事業 営業利益率
31.4%全社営業利益に占める比率

日本ギア工業は、一般的な製品寿命を10~20年とし、継続的に保守すれば30~50年の使用が可能だと説明する。01長期間の使用中には、歯車、軸受、ステムナット、シール、潤滑油、電気部品がそれぞれ異なる速度で摩耗する。

同社は点検周期を明確に示す。A級点検は毎年、アクチュエータをバルブに取り付けたまま現地で行う。B級点検は3~5年ごとに現地でモーターを外し、歯車や電気部品を詳しく調べる。C級点検は7~10年ごとに工場へ持ち帰り、完全に分解して、摩耗部品の交換と性能試験を行う。02

分解整備の間にも診断サービスがある。MACは電動弁を動かしながらトルクを測定し、駆動部やバルブの異常箇所を調べる。eMACは初回のトルク測定を基準に、その後は制御室でモーター電流を測り、低コストで劣化を追跡する。MOVDASは内蔵トルクセンサーと波形分析を使い、稼働中の摩耗や異常動作を監視する。02

電動アクチュエータの累計生産台数は30万台を超える。日本ギア工業は、各地のサービス拠点から純正部品を供給し、所定の手順で修理したうえで工場試験まで行い、納入済み機器を支えている。一台を設置すれば、毎年の点検に加え、定期的な詳細点検、部品交換、修理、改造が続く。2026年3月期の工事事業は売上高23.7億円、営業利益7.7億円を計上しており、この仕組みはすでに会社の利益を支えている。

01
事業の問い

製品事業の営業利益率は

工事事業は以前から高採算だった。日本ギア工業の利益を大きく変えたのは、製品事業である。

製品事業の営業利益率は、2022年3月期の1.2%から、2023年3月期11.3%、2024年3月期17.4%、2025年3月期17.9%、2026年3月期22.4%へ上昇した。2026年3月期の製品事業営業利益は3.9億円増え、工事事業営業利益は0.4億円減った。全社営業利益の増加分は、すべて製品事業から生まれている。0317

全社の損益計算書も同じ改善を示す。2026年3月期は売上高が前期比3.4%増えた一方、売上原価は4.0%減少した。売上総利益率は44.6%から48.6%へ4.0ポイント上昇し、営業利益は16.7%増加した。販売量だけではなく、売上高1円当たりの採算が改善している。

2024年5月の計画は、2025年3月期から2027年3月期までの全社累計目標を示した。2027年3月期会社予想を達成すれば、3年間の売上高は目標の98.1%、営業利益は117.7%、当期純利益は126.5%に達する。05利益の改善は当初計画を大きく上回っている。

2027年3月期第1四半期の製品事業営業利益率は22.6%だった。バルブ・アクチュエータの受注は前年同期比16.6%増え、全社受注残高は3月末から31.5%増の75.0億円となった。受注残高は通期売上高予想の75%に相当する。

同四半期の全社営業利益は前年同期比で1.17億円増えた。そのうち約0.75億円は、年金会計が費用要因から利益要因へ変わった影響である。04足元の事業の実力を見極めるには、全社の増益率より製品事業の営業利益率を見る方が分かりやすい。

次回決算で確認したいのは、75.0億円の受注残を消化していくなかでも、製品事業の営業利益率を20%前後に保てるかどうかである。維持できれば、5年間にわたる採算改善が一時的なものではなく、通常の利益水準として定着したと判断できる。

全社 2025年3月期~2027年3月期計画2025年3月期実績+2026年3月期実績+2027年3月期会社予想
売上高目標 300.0億円合計 294.4億円98.1%
営業利益目標 60.0億円合計 70.6億円117.7%
当期純利益目標 40.0億円合計 50.6億円126.5%
02
資本配分の問い

余剰資本の

2026年6月末の現預金は68.3億円、有利子負債は0.6億円だった。ネットキャッシュは67.7億円で、時価総額184.9億円の36.6%に相当する。投資有価証券も17.7億円保有する。04

日本ギア工業は、新製品開発、設備更新、新しい熱処理棟の建設を進めている。最大の開示案件は、2027年12月以降の完了を予定する藤沢工場の耐震工事14.8億円である。08この金額は現在のネットキャッシュの約22%で、複数年にわたって支出される。その間も、2026年3月期の事業は設備投資後に17.9億円のFCFを生んだ。

株主への配当は1株10円、配当性向は8.1%で、現在進行中の自社株買いはない。投資有価証券17.7億円のうち、上場政策保有株式19銘柄の簿価は14.8億円だった。還元方針を変えなければ、現金と有価証券は今後も増える可能性が高い。

支配株主は、東京で産業用バルブを扱う株式会社成和である。成和は日本ギア工業のアクチュエータ、ジャッキ、歯車も販売する。14成和は議決権の39.69%を保有し、寺田治夫社長13は成和の取締役も務める。2026年3月期に日本ギア工業が成和を通じて販売した製品は12.3億円だった。06

資本配分を左右する支配株主が、販売面では取引先でもある。手元に置く現金の適正額と、増配、自社株買い、上場政策保有株式の削減時期が開示されれば、余剰資本が少数株主にもたらす利益を数値で評価できる。現金残高が増え続ける場合は、市場が事業価値を低い倍率で評価し続ける可能性がある。

ネットキャッシュ475円を差し引くと、事業部分の株価は1株824円

製品事業営業利益率20%なら、事業価値は全社営業利益の5.10倍。22.6%なら4.69倍、15%なら6.11倍になる。

8月21日終値1株1,299円
ネットキャッシュ・6月30日時点67.7億円 · 1株475円
事業価値117.3億円 · 1株824円
自己株式控除後株式数1,423.7万株
製品事業利益率平準化後の全社営業利益1株当たり営業利益終値でのEV / 営業利益
15.0%19.2億円¥1356.11倍
20.0%23.0億円¥1625.10倍
22.6%25.0億円¥1764.69倍2027年3月期第1四半期

1株当たりネットキャッシュは67.7億円 ÷ 1,423.7万株 = 475円となる。終値1,299円から475円を引いた824円を、各ケースの1株当たり営業利益で割った。

8月21日の終値は1株1,299円だった。6月30日時点のネットキャッシュ67.7億円は1株当たり475円となる。これを差し引くと、事業部分の株価は1株824円となる。1,423.7万株を掛けた事業価値は117.3億円である。

この824円が営業利益の何倍に当たるかは、製品事業の利益率によって変わる。2027年3月期の会社予想売上高、2026年3月期の事業別売上高構成、工事事業の営業利益率32.5%を前提にすると、製品事業の営業利益率が15%の場合、全社営業利益は19.2億円、1株当たり135円となる。利益率20%なら23.0億円、1株当たり162円である。第1四半期と同じ22.6%なら、会社予想と同じ25.0億円、1株当たり176円となる。

現在の株価から算出した事業価値は、それぞれ営業利益の6.11倍、5.10倍、4.69倍となる。製品事業の営業利益率が20%に落ち着いても、事業価値は平準化後の営業利益の約5倍である。製品事業の営業利益率が約15.5%を下回ると、倍率は6倍を超える。

事業部分の824円は、1株当たりネットキャッシュ475円を全額差し引いた金額である。ただし、現金が手元に積み上がり続けると見込む投資家は、その現金を額面通りには評価しない。日本ギア工業の配当性向は8.1%で、自社株買いもない。手元に置く現金の上限や増配、自社株買いの方針が明確になれば、余剰資金の評価をめぐる見方も変わり得る。

今後の開示で注目したい点

継続的な保守売上高の内訳

点検、診断、部品、修理、改造の売上高と稼働中の設置台数が分かれば、継続収益の規模を把握しやすくなる。

製品事業利益率22%を支える要因

価格、製品構成、調達、生産性、年金要因の寄与が分かれば、利益率の持続性を判断しやすくなる。

必要現金と株主還元方針

事業に必要な現金の水準と、残額を増配、自社株買い、政策保有株式削減に使う方針が明確になれば、余剰資本の評価につながる。

次回決算では、受注残を消化するなかで製品事業の利益率を維持できるかが最初の注目点となる。続いて、手元現金の上限と、超過分を増配、自社株買い、政策保有株式の削減に回す方針が示されるかが焦点となる。10

参考資料

  1. 会社案内・保守による製品寿命
  2. A・B・C点検の周期とMAC、eMAC、MOVDASの診断サービス
  3. 2026年3月期 決算短信 · 2026年5月13日
  4. 2027年3月期 第1四半期決算短信 · 2026年7月31日
  5. 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
  6. 支配株主等に関する事項 · 2026年6月29日
  7. 2026年3月期 有価証券報告書 · EDINET
  8. 藤沢工場の耐震工事
  9. 会社案内・サービス拠点
  10. IRカレンダー
  11. NHKの次世代炉報道と日本ギア工業のストップ高買い気配を結び付けた午前10時21分の市場記事 · 2026年2月19日
  12. SMR案件を確認した日米共同発表 · 2026年3月19日
  13. 日本ギア工業の会社概要・社長名
  14. 株式会社成和の会社概要・日本ギア工業製品の販売関係
  15. 2025年3月期 有価証券報告書 · EDINET
  16. 2024年3月期 有価証券報告書 · EDINET
  17. 2022年3月期 有価証券報告書 · EDINET
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