日本ギア工業は、重要なバルブを何十年も動かし続ける
日本ギア工業が作っている代表的な製品は、バルブ・アクチュエータです。モーターと歯車でバルブを開閉し、発電所や製油所、化学プラント、上下水道で蒸気、燃料、薬品、水の流れを制御します。巨大なプラントの中では小さな装置ですが、これが動かなければバルブも役割を果たせません。
同社はジャッキ、増減速機、歯車も製造しています。2026年3月期の製品事業は売上高75.1億円で、全社売上高の76%を占めました。
ただし、株式価値を考えるうえで重要なのは、製品を納入した後です。日本ギア工業は、自社が販売した歯車装置や製品の保守を「工事事業」として別に開示しています。2026年3月期の工事事業は売上高23.7億円、営業利益7.7億円、営業利益率32.5%でした。売上高の24.0%で、全社営業利益の31.4%を稼いでいます。03
日本ギア工業は、高採算の保守事業をすでに持つ機械メーカーです。しかも、製品事業の営業利益率は4年間で1.1%から22%台まで上昇しました。2026年8月21日の終値1,299円を基準にすると、ネットキャッシュ控除後の事業価値は2027年3月期会社予想営業利益の4.69倍です。
株価は一度、この変化を大きく織り込んだ
業績の再評価は本物だった。その後、原子力政策への期待が会社固有の根拠を超えて株価を押し上げた。
低収益の一般的な機械メーカーとして評価されていた。
製品事業の採算改善が、市場の見方を変え始めた。
対米投資第2弾の原発案件報道が、原子力関連株としての期待に火を付けた。
最高終値から41%安いが、2年前より143.3%高い。
2024年7月31日の終値は534円でした。その後もしばらく500円を下回る水準で推移しましたが、その間に製品事業の採算は着実に改善していました。
市場の評価が変わり始めたのは2026年3月期です。2025年3月期決算を発表した2025年5月13日の終値は466円でした。7月31日には629円、2026年3月期中間決算を発表した10月31日には850円まで上昇しました。低収益の一般的な機械メーカーとして見ることが難しくなったためです。
次の上昇には明確なきっかけがありました。ただし、日本ギア工業の受注ではなく、政策テーマです。2月19日、対米投資第2弾の候補として原子力発電所や次世代炉が検討されていると報じられました。日本ギア工業はストップ高の1,092円で引け、前日比15.9%上昇。翌20日も22.4%上がり、1,337円となりました。11その後も上昇し、3月9日に最高終値2,200円を付けました。
政策の動き自体は本物でした。3月19日の日米共同発表は、テネシー州とアラバマ州でGEベルノバ日立が進める小型モジュール炉に最大400億ドルを投じる計画を確認しました。しかし、日本ギア工業の社名や同社への売上帰属は示していません。122,200円には、まだ開示利益になっていない会社固有の期待が大きく含まれていました。株価は4月7日に高値後の最安終値1,177円まで下落しました。
一方、事業は株価とともに崩れたわけではありません。2026年3月期営業利益は前期比16.7%増の24.6億円でした。全社営業利益率は24.9%、製品事業の営業利益率は22.4%に達しました。2027年3月期第1四半期も受注高が前年同期比12.1%増え、6月末の受注残高は75.0億円になりました。04
1,299円の株価は3月の最高終値を41.0%下回りますが、2年前と比べると143.3%高い水準です。日本ギア工業は、もう誰にも知られていない銘柄ではありません。ただし、現在の株価は2,200円に含まれていた期待を求めていません。問われているのは、改善した利益が続くか、そして蓄積する現金と有価証券の価値が株主一人ひとりに届くかです。
製品の販売は終点ではなく、保守関係の始まり
今日販売した製品が、その後30~50年にわたって点検、部品、修理の関係を作る。
日本ギア工業は、一般的な製品寿命を10~20年とする一方、継続的に保守すれば30~50年の使用が可能だと説明しています。01長寿命化は需要を消しません。需要の形を、更新から点検、診断、部品交換、修理、改造へ変えます。
アクチュエータには機械部品、潤滑油、シール、電気部品があります。プラントが稼働している間も、これらは劣化します。予防保全を先送りすることはできますが、物理的な摩耗を止めることはできません。最終的には保守、交換、または設備そのものの廃止が必要です。
日本ギア工業は、この保守を受注しやすい位置にいます。電動アクチュエータの累計生産台数は30万台を超えます。主要な発電所の構内や近隣にサービス拠点を置き、純正部品、段階別の点検、修理、性能試験、改造を提供しています。MAC、eMAC、MOVDASという診断システムで、アクチュエータや電動弁の状態も調べられます。02
経済の流れは明快です。製品を一台販売すると、保守対象となる設置機器が一台増えます。時間が経つと点検や診断が必要になります。保守と部品交換で寿命が延びると、同じ機器と長く関わることができます。
工事事業の開示は、この循環が実際の利益になっていることを示しています。保守の付帯率、更新率、稼働中の台数を年式別に開示すれば、さらに精密に分析できます。しかし、そうした数字がなくても、自社製品の保守から高い通常利益を得ている事実は確認できます。
重要設備を使い続ける限り、何らかの保守は避けられません。ただし、そのすべてを日本ギア工業が受注するわけではありません。独立系の保守会社や他社製品への更新もあります。それでも、既存設置台数、純正部品、専用診断機器、現地サービス網を持つ日本ギア工業が、現在もっとも有力な受け皿です。
製品事業の営業利益率は20%台に定着したのか
保守事業は以前から高採算でした。会社全体の利益構造を変えたのは製品事業です。
製品事業の営業利益率は、2022年3月期の1.1%から、2023年3月期11.3%、2024年3月期17.4%、2025年3月期17.9%、2026年3月期22.4%へ上昇しました。2026年3月期の製品事業営業利益は3.9億円増えましたが、工事事業営業利益は0.4億円減りました。全社の増益はすべて製品事業から生まれています。03
損益計算書も同じ変化を示します。2026年3月期は売上高が3.4%増えた一方、売上原価は4.0%減りました。売上総利益率は44.6%から48.6%へ上昇し、営業利益は16.7%増えました。売上数量が増えただけではなく、売上高1円から得られる利益が大きく増えています。
2024年5月に公表した計画では、2025年3月期から2027年3月期までの累計目標を、売上高300億円、営業利益60億円、当期純利益40億円としていました。2025年3月期実績、2026年3月期実績、2027年3月期会社予想を合計すると、売上高294.4億円、営業利益70.6億円、当期純利益50.6億円です。会社予想を達成すれば、累計売上高は目標を1.9%下回る一方、営業利益は17.7%、当期純利益は26.5%上回ります。05
2027年3月期第1四半期も、製品事業の営業利益率は22.6%でした。バルブ・アクチュエータの受注は16.6%増え、全社受注残高は3月末から31.5%増の75.0億円となりました。通期売上高予想100億円の75%に相当します。ただし、受注残高がいつ売上になるか、どの程度の利益率を持つかは開示されていません。
第1四半期の増益には、年金会計の影響もあります。前期は数理計算上の差異43百万円を費用計上しましたが、今期は31百万円の利益要因となりました。前年同期比で約75百万円の改善です。全社営業利益の増加額117百万円の約3分の2を占めます。04
この年金要因は、第1四半期の増益率を読む際には外す必要があります。しかし、5期連続で進んだ製品事業の利益率改善までは説明できません。今後の決め手は、75.0億円の受注残高が売上になる過程で、製品事業が20%前後の営業利益率を維持できるかです。
強い貸借対照表は誰のために使われるのか
2026年6月末の現預金は68.3億円、有利子負債は0.6億円でした。ネットキャッシュは67.7億円で、時価総額184.9億円の36.6%に相当します。投資有価証券も17.7億円保有しています。04
事業には一定の現金が必要です。日本ギア工業は新製品の開発、設備更新、新たな熱処理棟の建設を進めています。藤沢工場では、2027年12月以降の完了を予定する14.8億円の耐震工事も行います。従業員の安全と生産継続を守るための必要な投資です。08
ただし、これだけで貸借対照表の全体は説明できません。耐震工事は現在のネットキャッシュの約2割で、複数年にわたって支出されます。2026年3月期は、有形・無形固定資産の取得後でも17.9億円のフリーキャッシュフローを生みました。
株主への配当は1株10円で、配当性向は8.1%でした。現在進行中の自社株買いは確認できません。2026年3月末には、上場株式19銘柄を簿価14.8億円保有していました。
この問題は、単なる余剰現金の議論ではありません。株式会社成和は議決権の39.69%を保有し、バルブ・アクチュエータの販売代理店でもあります。寺田治夫社長は成和の取締役を兼務しています。2026年3月期に日本ギア工業が成和を通じて販売した製品は12.3億円でした。06
この関係が販売に役立っている可能性は十分あります。同時に、少数株主は、低い倍率と強い貸借対照表だけで自動的に評価差が縮まると考えるべきではありません。適正な現金水準、増配方針、自社株買い、政策保有株式の削減方針が示されれば、一株当たり価値との結び付きが明確になります。現金を積み上げるだけなら、現在の低い評価にも理由が残ります。
現在の株価は事業を何倍で評価しているか
強い現金残高を控除すると、開示済みの利益に払っている倍率が見える。
1,299円の株価に発行済株式数を掛けると、時価総額は184.9億円です。ネットキャッシュ67.7億円を差し引くと、事業価値は117.3億円になります。2027年3月期会社予想営業利益25.0億円の4.69倍、2026年3月期営業利益24.6億円の4.77倍です。
2027年3月期会社予想営業利益を固定し、事業に付ける倍率だけを変えてみます。4倍で評価してネットキャッシュを加えると、株式価値は約1,178円です。6倍なら1,529円、8倍なら1,880円になります。現在の1,299円は、4倍と6倍の間にあります。
これは資産処分価値の計算ではありません。投資有価証券をネットキャッシュに重ねて加えておらず、設置機器から生まれる保守事業にも別の価値を付けていません。現在の資本構成のもとで、開示済みの営業利益に市場がいくら払っているかを示したものです。
日本ギア工業には、独立した二つの価値向上経路があります。受注残高を売上に変えながら、製品事業の20%超の利益率を定着させること。もう一つは、貸借対照表をすべての株主のために効率よく使うことです。前者は事業の実行力、後者は経営判断の問題です。
経営陣に確認したいこと
工事事業の売上高を点検、部品、修理、改造に分け、保守の付帯率や継続率を示す。
価格、製品構成、調達、生産性、年金要因を分け、20%が再現可能か判断できるようにする。
適正現金水準、株主還元方針、上場政策保有株式の削減方針を示す。
出典資料
本稿について
JIIはIRコンサルティング会社です。本稿は公開情報をもとに、投資家が企業の経済性と開示を理解するための視点を示した編集記事であり、特定の有価証券の売買や保有を推奨するものではありません。株価、倍率、評価感応度は変化するため、判断にあたっては最新の一次開示をご確認ください。