学情はどんな会社か
学情は、「20代の採用」にかなり絞り込んだ採用支援会社である。主力は20代向け転職サイトの「Re就活」。同種サイトとして7年連続で利用率首位とされ、登録会員は280万人、その93%が20代だ。企業は求人掲載やスカウト利用に対して料金を払う。これに加えて、採用が決まった時点で成功報酬を受け取る人材紹介、新卒向けスカウトサイト「Re就活キャンパス」、対面型の合同企業セミナー「転職博」「就職博」も展開している。規模は大きくないが、自治体などから公的な就労支援事業も受託している。
事業モデルは重い設備を必要としない。ソフトウェア以外の事業用資産は少なく、主な費用は人件費、広告宣伝費、イベント会場費で、有利子負債もない。したがって見るべき点は大きく2つに絞られる。ひとつは、会員獲得とブランド認知のためにどれだけ費用を使うか。もうひとつは、受注した案件がいつ売上になるかである。学情の売上は、受注した日ではなく、求人掲載が始まった日や紹介が成立した時点で計上される。
売上は底堅い一方で、利益率は揺れている。2025年10月期の売上高は110億円、営業利益は23.3億円、営業利益率は21.2%だった。売上は伸びたが、販促とシステム投資を増やしたため、営業利益は12%減となった。ROEも16.1%から12.9%へ低下している。これは事業の採算だけでなく、時価総額の半分を超える113億円の現金・有価証券を抱える貸借対照表の影響も大きい。一方で、配当は6期連続で増配している。
直近決算は、悪い数字と良い数字が混在している。2026年6月8日に発表した上期決算は会社計画を下回った。売上高は前年同期比5.8%増だったものの計画比では9%未達、営業利益は26%減だった。同日、会社は通期の営業利益予想を32.5億円から26億円へ下方修正し、上限6.5億円・発行済株式の3.0%を対象とする自己株式取得も決議した。ただし、受注高は11.2%増と売上を上回る伸びで、人材紹介も46%伸びている。ここでの論点は、下方修正を事業力の低下と見るのか、それとも無借金で現金を厚く持つ創業家企業が、投資と売上計上タイミングの谷にあるだけと見るのかである。
本稿では、まず過去2年の株価が何に反応してきたかを整理し、次に投資家の見方が分かれる論点を確認する。そのうえで、評価の割引を縮め得る材料と、事業価値・貸借対照表価値を合わせた見方を考える。
過去2年の株価は何に反応してきたか
学情の収益源は、20代と企業をつなぐ採用メディア、人材紹介、新卒サービス、合同企業セミナーである。固定資産が少なく現金が厚い会社であるため、株価は売上成長そのものよりも、利益率と業績予想の変化に強く反応してきた。
01 · ピーク(2024年12月) 2024年12月13日、株価は2年来高値の¥2,357(終値¥2,293)を付けた。2024年10月期は売上高107億円、営業利益26.6億円、営業利益率24.8%と過去最高水準で、会社は翌期も増収増益を計画していた。当時の評価は予想営業利益の約14倍で、安定成長する採用メディア企業として扱われていた。
02 · 投資の年とマルチプル低下(2025年) その後の2025年は、投資先行による利益率低下を市場が嫌気した年だった。会員獲得のためのプロモーションやシステム投資が増え、営業利益は12%減の23.3億円、営業利益率は24.8%から21.2%へ低下した。株価は約¥2,290から2025年10月の¥1,614まで下落した。売上が崩れたというより、利益率の低下を受けて評価倍率が切り下がった形である。
03 · 2年来安値へ(2026年初) 2026年に入っても、利益率回復の確度は十分に見えなかった。市場の評価切り下げは続き、5月下旬には株価が¥1,596前後まで低下。上期決算を前にした2026年6月3日には、2年来安値の¥1,520を付けた。
04 · 現時点 2026年6月8日の終値は¥1,547。同日の取引終了後、会社は通期営業利益予想を26億円へ引き下げ、同時に6.5億円の自己株式取得を発表した。株価はこの開示をまだ織り込んでいない。2024年12月の高値からは約3分の1下がり、修正後予想ベースで見ると、現金・預金を控除した事業価値はEV/営業利益で約5.5倍にとどまる。今後の焦点は、これが一時的な谷なのか、低成長企業としての評価が妥当なのかである。
投資家の見方が分かれる論点
黒字を維持し、現金を厚く持ち、増配も続ける会社が2年来安値圏で取引されている。理由を整理すると、論点は3つに集約される。下方修正は売上計上タイミングの問題なのか。先行投資は将来の利益につながるのか。そして、現金や有価証券を考慮した低い倍率は本当に割安なのか、単なる割安の罠なのか。
学情の売上は、受注した時点ではなく、求人掲載が始まった時点や人材紹介が成立した時点で計上される。そのため、上期に獲得した受注が下期の売上になることがある。今回の未達が、単なる売上計上時期のずれなのか、それとも企業側の採用需要が弱くなっているサインなのかが重要になる。
広告宣伝費やシステム投資は、発生した期の費用として利益を押し下げる。一方で、それが会員基盤やブランドを強くし、数年後の売上と利益につながるなら、短期的な利益率低下は許容できる。問題は、その支出が将来の成長投資なのか、現在の地位を保つための維持費なのかである。
現在のEV/営業利益5.5倍は、利益率が低下した後の営業利益を基準にしている。また、通常のEV計算では現金・預金だけを差し引き、投資有価証券48億円を現金同等として扱っていない。もし利益率が2024年10月期の24.8%に近づき、現金・有価証券113億円を実質的な余剰資産として見れば、事業倍率は3倍台まで下がる。問題は、市場がその回復と資産価値を信じてよいのかである。
評価の割引を縮めるために何が必要か
大きな増益がなくても、投資家が割り引いている理由を会社が取り除けば、評価は変わり得る。特に重要なのは、売上の消化、利益率の回復、資本政策の3点である。いずれも、外部環境だけでなく経営判断や開示の改善で前進できる余地がある。
バリュエーションの見方
2026年6月8日の終値¥1,547を基準にすると、時価総額から現金・預金65億円を差し引いた事業価値は約142億円で、修正後の2026年10月期営業利益予想26億円に対してEV/営業利益は約5.5倍となる。さらに投資有価証券48億円も実質的な余剰資産として差し引けば、倍率は約3.6倍まで下がる。以下の3シナリオはJIIの試算であり、会社計画や目標株価ではない。
- 下期の売上が修正計画を下回る。
- Re就活がマイナスのまま、受注の伸びが鈍る。
- 還元の枠組みなし、現金は積み上がり続ける。
- 事業の倍率が3〜4倍に留まる。
それでも、1株あたり約¥842の純現金・有価証券と6期連続増配は下値を一定程度支える。
- FY26営業利益が26億円計画を達成。
- 受注残を消化、人材紹介とダイレクトが伸長継続。
- 自己株買いで自己株控除後の株数が減少。
- 事業の倍率が5〜6倍を保つ。
- Re就活が成長へ回帰、利益率が再構築。
- 営業利益が26億円計画を上回る。
- より大型の還元か自己株式の消却。
- 事業の倍率が8倍へ切り上がる。
強気シナリオの前提は、現金・有価証券が株主価値として認識され、事業そのものも高採算・資本軽量のフランチャイズとして再評価されることだ。
本資料は投資助言ではありません。
株式会社ジャパン・インベスター・インターフェース(以下「JII」)はIRコンサルティング事業を行う会社であり、いかなる管轄においても投資助言業者、金融アドバイザー、証券会社、または証券業者として登録されていません。JIIは、日本の金融商品取引法に基づく金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録も保有しておりません。JIIは、投資助言を行うものでも、特定の有価証券の取得・売却・保有を勧誘するものでもありません。
JII Compoundersは、教育・調査を目的とする編集コンテンツです。各銘柄レポートは、日本の上場企業が公表している情報をもとに、その情報が市場でどのように受け止められてきたかを考察するものです。想定読者は、IR実務者、金融を学ぶ方、報道関係者、企業開示に関心のある方です。掲載内容は、いかなる有価証券、デリバティブその他の金融商品の取得・売却・保有を推奨、提案、勧誘するものではありません。株価水準、シナリオ、評価倍率、類似企業比較は分析方法を示すための例であり、JIIの投資判断を示すものではありません。
ご利用にあたって。記載情報は不完全であったり、古くなっていたり、誤りを含んでいたりする可能性があります。将来に関する記述には不確実性があります。過去の株価推移は将来の成果を示すものではありません。推計値やシナリオ値は予測ではなく、実現しない可能性があります。
助言関係等は生じません。本コンテンツを閲覧しても、読者とJIIとの間に助言、受託、その他専門職としての関係は生じません。投資、税務、会計、法務その他の判断を行う前に、資格を有する専門家にご相談ください。
利益相反および保有状況。JIIは、本コンテンツで言及する企業を含め、日本の上場企業に対して有償でIR診断、翻訳、通訳等のサービスを提供する場合があります。JIIは、銘柄レポートの対象企業の有価証券を売買せず、保有もしません。対象企業との間に有償契約がある場合は、銘柄レポートの冒頭で開示します。
商標およびデータ。本資料中で言及される企業名、ロゴ、ティッカー、製品名は、各々の所有者に帰属します。株価データは第三者プロバイダーからライセンスを受けています。TradingViewはTradingView, Inc.の商標です。