東証プライム · 4776 · 12月決算 Cybozu, Inc.

サイボウズ株式会社

グループウェア・ノーコード業務アプリ SaaS
終値
¥2,1972026/5/13
2025年8月高値から −47% · 4月安値から +12%
時価総額 / EV
¥1,016億 / EV ¥935億
ネットキャッシュ ¥80億(時価総額の8%)· 5/14に ¥30億 の自己株買いを発表
EV / EBIT · 予想
8.9x
高値時は 約30x · 同業中央値は 約12x · 足元は保守的な評価
ROCE · 直近12か月
68%
FY23 42% → FY25 68% · 値上げで収益性が一段上がった局面
連結営業利益率
27%
FY26会社計画 25% · Q1実績 29%(会社計画を上回る立ち上がり)
発行済株式・浮動株
4,624万株 · 浮動株 ~73%
自己株式 12.3% · 今回の取得枠は発行済株式の最大 6.5%
01 · 株価の見方

この2年間、株価を動かしてきたものは何か

サイボウズ株は2024年5月の約 ¥1,600 から2025年8月に ¥4,150 まで上昇した後、8か月で上げ幅の大半を失った。焦点は、2025年12月のFY26計画、2026年2月の米国子会社減損、そして5月14日引け後のQ1決算と自己株買いをどう読むかである。

4776 vs TOPIX · 過去24か月 · 日足ローソク+出来高
ピーク ¥4,150 · 2025/8/19 直近底値 ¥1,965 · 2026/4/13 足元 ¥2,197
サイボウズ · 日足 60日移動平均 TOPIX 連動ETF(1308.T、開始日基準) 出来高

01 · 上昇局面 サイボウズは、国内では長く「サイボウズ Office」「Garoon」で知られてきたグループウェア企業である。ここ数年の株式市場で同社の見方を変えたのは、ノーコードで業務アプリを作れる「kintone」だった。導入社数は2025年12月末時点で国内約39,000社(前年同期は約34,000社)、東証プライム企業の採用例も多い。さらに国内クラウド売上の約3分の2は約560社のパートナー経由で入り、導入支援や設定作業はパートナー側が担う。サイボウズ本体はソフトウェアの継続課金に寄りやすく、国内SaaSとしては利益率が出やすい販売構造を持っている。

2024年から2025年にかけて株価が上がった理由は単純で、kintoneの単価が大きく上がり、それが利益に直結したからである。FY25のNRRは121.9%、月次解約率は1%未満。価格改定と最小契約ユーザー数の引き上げにより、kintoneのARPAはFY23の¥34,100からFY25の¥47,100へ、2年で38%上昇した(FY21の¥30,900からは4年で+52%)。FY24本決算では売上+16.7%、営業利益+44.2%。FY25は売上+26.1%、営業利益+106.4%が視野に入り、値上げが売上だけでなく営業利益を押し上げることが確認された。2025年8月19日の高値¥4,150は、向こう12か月のEV/EBITで約30倍にあたり、市場はこの利益水準がある程度続く前提で評価していた。

02 · 調整局面 流れが変わったのは2025年12月18日のFY26計画である。会社計画は売上+12.7%、営業利益+4.1%。直前期に営業利益が倍増した直後としては伸びが弱く、当時の高い評価水準を支えきれなかった。会社はFY28売上¥509億に向けた先行投資、従業員への特別賞与、広告宣伝費+28%、研究開発費+34%、愛媛スポーツエンターテイメントの連結影響を説明した。ただし投資家が気にしたのは、コスト増そのものよりも、FY24/25のARPA上昇がどこまで繰り返せるのかという点だった。値上げ、既存顧客内の利用人数増、ワイドコースへの移行がどの程度ずつ効いたのかは開示されていない。ここが見えないため、FY25の高い増分利益率をそのまま将来に伸ばしてよいのか、判断しづらくなった。

さらに2026年2月9日には、米国子会社Kintone Corporation(2011年8月にCYBOZU CORPORATIONとして設立、2016年に現社名へ変更)に関する関係会社株式評価損¥14.85億が個別決算で発表された。同子会社はFY25末に¥3.55億の債務超過となっている。会社は米国事業への投資継続を示したが、累積でどれだけ資本を投じ、いつ、どの水準で回収を判断するのかは十分に示されていない。国内kintoneの資本効率が高いだけに、米国に投じる資本の規律は市場にとって大きな論点になった。株価は2026年4月13日¥1,965まで下落し、高値からの下落率は53%に達した。

03 · 現在地 2026年5月14日の引け後に出たQ1 FY26決算は、調整後の見方を少し変える内容だった。売上は¥102.46億(+17.0%)、営業利益は¥30.14億(+15.3%)、純利益は¥21.91億(+21.6%)。広告宣伝費や研究開発費を増やし、愛媛スポーツの費用も連結したうえで、営業利益率は29.4%と通期計画の24.9%を上回った。同日には¥30億・最大300万株の自己株買いも発表された。年間配当¥50と合わせたFY26の株主還元は約¥53億、会社予想純利益の約71%に相当する。事業そのものの質が崩れたというより、市場が確認したい論点は三つに絞られた。第一にARPA上昇の持続性、第二に米国事業の回収可能性、第三に今回の自己株買いが一度限りではなく資本政策として続くのかである。

02 · 投資家の論点

市場が確認したい3点

株価下落は「業績悪化」だけでは説明しにくい。投資家は、値上げ後の利益水準、海外投資の規律、株主還元の継続性を見ている。

論点 01 · 国内SaaSの利益水準
FY26営業利益 +4.1%計画は慎重な会社計画か、実力値の低下か
強気 強気に見る投資家は、Q1を会社計画の保守性を示す材料と読む。売上は+17.0%、営業利益は+15.3%。広告宣伝費、研究開発費、愛媛スポーツ関連費用を増やしても営業利益率は29.4%を確保した。Q2またはQ3で通期営業利益が¥110億超へ上方修正されれば、FY26計画は実力値ではなく慎重な出発点だったとの見方が強まる。
弱気 慎重派は、FY25の増分営業利益率67%が値上げの一巡効果だった可能性を見る。Q1 FY26の増分営業利益率は27%まで下がっており、ARPAがFY23の¥34,100からFY25の¥47,100へ上がった効果を今後も同じように使えるとは限らない。FY26営業利益が会社計画の¥105億前後で着地すれば、値上げ効果はかなり織り込まれたとの受け止めになりやすい。
論点 02 · 米国事業
成長投資として待てる段階か、資本効率の重荷になっているか
強気 強気に見るなら、米国SaaS市場では黒字化まで時間がかかること自体は珍しくない。サイボウズは無借金で、FY25の営業キャッシュフローは¥106.7億ある。米国事業は910社に導入され、FY25にはHIPAA準拠も達成した。米国売上の伸びが+30%以上で開示されれば、投資を続ける根拠はかなり見えやすくなる。
弱気 慎重派は、Kintone Corporationが8年連続赤字、FY25末に¥3.55億の債務超過、FY25に¥14.85億の関係会社株式評価損を計上した点を重く見る。国内kintoneのROCEが高いだけに、米国に投じる資本の回収時期と撤退基準が見えないことは評価の重しになる。FY26決算で追加の評価損が出れば、市場は米国投資の規律をさらに問うことになる。
論点 03 · 資本政策
30億円の自己株買いは方針転換の始まりか、一度限りの対応か
強気 5月14日の自己株買いは、¥30億・最大300万株、発行済株式の6.5%に相当する大きさで、実施期間は2026年5月15日から7月31日まで。年間配当¥50と合わせると、FY26の総還元は約¥53億、会社予想純利益の約71%となる。次回決算以降に継続的な還元方針が示されれば、市場は資本効率改善をより素直に評価しやすい。
弱気 一方で、今回の説明は「保有資産の活用・資本構成の再構築」にとどまり、継続ルールは示されていない。創業者の青野CEOは個人で17%を保有し、米国事業や愛媛スポーツにも深く関与している。愛媛アリーナなどで大きな資金投下が決まり、同時に還元ルールや外部資金の活用方針が示されなければ、資本配分の優先順位に対する疑問は残る。
03 · 評価を変える材料

IRと資本政策でできる3つの打ち手

利益を急に増やさなくても、投資家が判断できる材料を出せば評価は変わり得る。サイボウズの場合、優先順位は明確である。

打ち手 01 · 開示
kintone ARPAの内訳を示す
kintone ARPA推移 · FY23 → FY25(¥/アカウント)
FY23 ARPA
¥34,100
FY24 ARPA
¥40,700
FY25 ARPA
¥47,100
内訳
未開示
FY23→FY25の2年で+38%上昇(FY21からの4年では+52%)。値上げ、利用人数増、上位プラン移行の寄与は未開示。
投資家が知りたいのは、ARPA上昇のうちどれだけが一度きりの値上げで、どれだけが既存顧客内の利用拡大や上位プラン移行による継続的な伸びなのかである。価格改定利用ユーザー数ワイドコースなど上位プランへの移行に分けて示せば、FY25の利益水準をどこまで将来に置けるかを市場が判断しやすくなる。NRR 121.9%だけでは、質の違う成長要因が一つに混ざって見えてしまう。
会社側の負担
四半期決算資料にスライド1枚追加
最短時期
Q2 FY26決算(2026年8月)
打ち手 02 · 資本政策
自己株買いと配当の考え方を明文化する
FY26株主還元構成(発表ベース)
1株配当 ¥50
¥23.1億
自己株買い(5/14発表)
¥30.0億
総還元
約¥53.1億
FY26予想純利益の約71%。規模は大きいが、現時点では継続ルールが未提示。
5月14日の自己株買いは評価材料だが、このままでは「安いから一度買った」とも読める。投資家が評価しやすいのは、例えば純利益に対する総還元性向の目安、株式報酬による希薄化を相殺する買い方、EV/EBITなどを使った機動的な取得基準である。一度限りの決議を、継続的な資本政策に変えることができれば、国内kintoneで稼いだキャッシュの使い道に対する不安は下がる。
会社側の負担
取締役会方針と開示文言の整備
最短時期
FY26本決算(2027年2月)
打ち手 03 · 開示
米国事業の投資額と回収基準を出す
Kintone Corporation · 米国子会社の現況
累積赤字年数
8年
FY25評価損
¥14.85億
債務超過
¥3.55億
累積投下資本
約¥100億 推計
累積投下額、黒字化時期、撤退・縮小基準は未開示。
米国事業は、サイボウズの資本配分をめぐる最大の確認事項である。投資を続けるなら、累積投下資本、売上成長率、損益分岐の時期、未達時の見直し基準を並べて示す必要がある。例えば「FY28までに黒字化、未達なら体制を縮小・再編する」といった目安があれば、投資家は成長投資として待てるかを判断できる。方向性が継続でも見直しでも、数字で示されること自体が評価改善につながる。
会社側の負担
注記・補足資料での定量開示
最短時期
FY26本決算(2027年2月)
04 · 株価シナリオ

向こう4四半期の見方

以下は予想ではなく、株価がどの材料に反応しやすいかを整理するためのシナリオである。

弱気シナリオ
¥1,500 – ¥1,800
−32%〜−18%
織り込み倍率 · 約6–7x EV/EBIT(予想)
FY25のARPA上昇が一巡したとの見方が強まり、投資規律への不信が残る
条件
  • FY26通期営業利益が会社計画の ¥105億 前後または下振れで着地。
  • FY26本決算でKintone Corporationの追加評価損が発生。
  • 愛媛アリーナ関連で ¥30億超 の資金負担が見え、外部資金や責任分界が示されない。
  • ARPAの内訳開示がなく、2回目の自己株買いや還元方針も示されない。
  • 国内kintoneのNRRが 115% を下回り、値上げ後の伸び鈍化が確認される。

このレンジの予想EV/EBITは約5.8–7.0倍で、国内ソフトウェア会社の非公開化で見られる7–10倍の下限を下回る。事業価値というより、資本配分への不信が強く残る場合の下値目線である。

中立シナリオ
¥2,200 – ¥2,800
0%〜+27%
織り込み倍率 · 約9–11x EV/EBIT(予想)
FY26計画の保守性が確認され、3つの論点のうち1つに進展が出る
条件
  • Q2またはQ3 FY26で通期営業利益が ¥110億超 へ上方修正。
  • 中間または通期決算でkintone ARPAの内訳や推移が示される。
  • 5/15–7/31の自己株買い枠を着実に消化し、次回以降の還元方針に言及。
  • Kintone Corporationの追加減損がなく、米国売上の伸びが+30%以上と確認される。
強気シナリオ
¥3,200 – ¥4,000
+46%〜+82%
織り込み倍率 · 約13–16x EV/EBIT(予想)
ARPAの持続性と資本政策の継続性が同時に見える
条件
  • ARPAの内訳開示により、値上げ以外の利用拡大・上位プラン移行が続いていると確認される。
  • 総還元性向や自己株買い基準など、資本配分の考え方が明文化される。
  • Kintone Corporationの累積投下資本、黒字化時期、未達時の見直し基準が開示される。
  • FY26通期営業利益が ¥115億 以上で着地し、増コスト後も利益成長が続くと確認される。
  • 愛媛アリーナ関連は、外部資金やスポンサー活用により、上場SaaS会社としての資本効率を損なわない形で整理される。

強気ケースの上限は2025年8月高値の¥4,150を下回る。高値時の約30倍まで戻すには、国内ARPAの再加速に加え、米国/APAC事業の見方が大きく変わる必要があり、向こう4四半期だけでは織り込みにくい。

事業価値の目安 · kintone本業
kintone — ノーコード業務アプリSaaS · 連結売上の58%
FY25売上(クラウド)¥216.89億
前年比成長率+33.9%
NRR · 解約率 · ARPA121.9% · 0.92% · ¥4.71万
営業利益率(推計)約30%超
同業倍率(3923、4432)6–10x EV/売上高
中立ケースのEV目安: 約¥1,500億 FY26売上ペースの約7倍
事業価値の目安 · 既存製品+周辺事業
サイボウズ Office + Garoon + メールワイズ + 米国/APAC
FY25 kintone以外の連結売上¥157.41億
Office + Garoon(成熟SaaS)¥130.45億 · 4–6x売上高
中立ケース 既存SaaS EV約¥650億
Kintone Corporation + 愛媛 + 周辺−¥50億〜¥0
合算EV目安 vs 現EV¥2,100–2,150億 vs ¥935億
市場は成長鈍化と資本配分リスクをかなり織り込んでいる。3つの論点のうち1つでも前進すれば、中立〜強気寄りの見方に戻りやすい。
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