J|I Japan Investor Interface · Compounder 銘柄レポート
東証プライム · 6328 · 12月決算 EBARA JITSUGYO CO., LTD.
荏原実業株式会社
自治体・産業向けに水・大気・廃棄物を処理する設計、機器、自社製品
終値
¥2,4462026年6月30日
−17% 2026年2月高値から · 6月安値から+8%
時価総額 / EV
¥580億 / EV ¥457億
ネットキャッシュ ¥124億(時価総額の21%)· 借入¥15億
EV / 営業利益 · 予想
7.2
プレミアム同業 ~17〜19倍 · FY26予想営業利益 ¥63億
使用資本利益率(ROCE) · 直近
22%
利益急増でFY24の約18%から上昇 · ROE 17%
営業利益率 · 全社
14.9% · 全社
FY25 14.9% · FY26予想 14.3% · 従業員約548名
発行株式数 · 流通比率
2,370万株 · 浮動株 約96%
NAVF 7.6% · 光通信 7.9% · 信託口 11.9%
はじめに

荏原実業は何をしている会社か?

荏原実業は、日本の都市と工場の水・大気・廃棄物をきれいにする設計、機器、自社製品を販売している。事業は3つに分かれる。エンジニアリング事業は、上下水道プラントの案件を自治体から直接受注し、設計・施工までを担う。商社事業は、荏原製作所製のポンプ・送風機・空調機器を仕入れて販売する。製造事業は、オゾン装置・脱臭装置・蓄電池など、同社が自ら開発する製品を販売する。

収益は主に案件ごとに発生する。エンジニアリングと製造の各案件は、受注し、施工し、請求するため、売上は同社が手がけている案件に左右される。商社事業は、顧客が機器を再発注することで安定したリピート売上を加える。純粋なリカーリング収入はほとんどないため、受注残高が同社の将来の仕事量を投資家に示す指標となる。

この事業が重要なのは、日本が老朽化した上下水道インフラを今後数十年にわたり更新し、脱炭素を進めねばならないなか、荏原実業がその仕事を担うプラントを設計しているからである。FY2025は売上412.1億円、営業利益61.2億円を計上し、全社営業利益率は14.9%だった。同社は無借金で運転資本もほとんど要さないため、使用資本利益率(ROCE=営業利益÷使用資本)は約22%に達した。これは、事業が実際に使う資本をどれだけ利益に変えているかを測る指標である。

株価はこの質を映していない。2026年6月30日の¥2,446では、事業は予想EV/営業利益(企業価値÷予想営業利益)で約7.2倍に評価され、ネットキャッシュは時価総額の約21%に相当した。論点は、無借金・ROCE 22%・受注残高過去最高・株主名簿にアクティビストを抱える企業に、なぜ市場が1桁台の倍率を付けるのかである。本レポートはこの問いを、まず株価がここに至った経緯、次に投資家が割れている論点、その差を縮め得る経営の手段、最後に事業と現金の価値という順で読み解く。

01 · 株価レジーム

過去2年、株価を動かしたものは何か?

荏原実業は自治体向けに上下水道プラントを設計・施工し、荏原製作所のポンプ・空調機器を販売し、自社の環境製品を製造する。仕事の多くを官公需の直接受注で得るため、受注残高が確保済みの仕事量を示す。

6328 vs TOPIX · 24か月 · 日足+出来高
ピーク ¥2,960 · 2026-02-27 安値 ¥2,259 · 2026-06-03 現在 ¥2,446
荏原実業・日足 60日移動平均 TOPIX リベース (1308.T) 出来高

01 · 記録的な期に払い上げたとき 株価は2026年2月27日に¥2,960を付け、事業をEV/営業利益で約9〜10倍に評価した。好材料が続いていた。2026年2月9日に同社はFY2025の最高益を発表し、営業利益は44.0%増、10億円の自己株買いを決議し、配当性向目標を引き上げた。1週間後にはアクティビストの株主提案提出の報も楽観を後押しした。市場は記録的な期と、現金の還元への期待を払っていた。

02 · マルチプルが押し戻されたとき 高値から株価は約17%下げ、2026年6月3日に安値¥2,259を付けた。下落の要因は2つある。第一に、東京市場では第2四半期を通じて小型株・バリュー株が広く売られ、荏原実業は売買が薄い。第二に、アクティビストの3つの提案が2026年3月24日の定時株主総会で否決され、少数株主は現金を貸借対照表から動かせないと市場に示した。業績は落ちていないのに、倍率は縮小した。

03 · 第1四半期決算と自己株買いが入ったとき 2026年5月11日に同社はFY2026第1四半期を発表し、営業利益は15.9%増、受注残高は19.6%増の327.7億円と過去最高だった。自己株買いは株価の下で進んでおり、2026年6月4日までに上限60万株のうち28.9万株を7.31億円で取得していた。営業の数字は改善を続けたが、株価は安値圏に留まった。

04 · 現時点 株価は2026年6月30日に¥2,446で引けた——6月安値から約8%上、2月高値から約17%下、予想EV/営業利益で約7.2倍である。ネットキャッシュは時価総額の21%に相当し、受注残高は過去最高、10億円の自己株買いはなお進行中、アクティビストは株主名簿に残る。今後4四半期の焦点は主に1つ——経営陣が現金を活用しより明確な資本方針を示すか、それともこの割安が続くかである。

02 · 投資家論点

市場で割れている論点

1桁台の倍率を説明する論点は3つ。いずれも同社の開示資料、株価下落、そしてこの事業の質と市場評価の差に表れている。

論点 01 · 評価倍率
無借金・ROCE22%の企業に7倍は割安か、適正か。

EV/営業利益はネットキャッシュを除いた事業のみを評価する。7.2倍はプラント・製品事業だけに付く価格だ。論点は、ROCE22%の企業にこの価格が低すぎるのか、それとも遊休現金・有価証券がリターンを過大に見せ割引が妥当なのかである。

強気 下げ過ぎだという見方。予想EV/営業利益7.2倍で、ROE17%、上昇中のROCE22%、全社営業利益率14.9%、時価総額の21%に相当するネットキャッシュ、過去最高の受注残高を示す。最割安のプラント会社・月島HD(7.3倍)並みで、メタウォーター(10.5倍)を下回り、利益率が同等以下のクリタ(17.1倍)・オルガノ(18.8倍)の半分未満で取引されている。現金・政策保有株の縮小とともに倍率が水処理銘柄の水準へ切り上がれば、この見方は成立する。
弱気 倍率は適正かもしれないという見方。貸借対照表には124億円のネットキャッシュと、ほとんど稼がない93.5億円の投資有価証券があり、見かけのリターンは働かない資本で水増しされている。7.58%を保有するアクティビストのニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)はこれを株主提案に付したが否決され、少数株主が現金を出させられないことが示された。FY2026決算時点でネットキャッシュと投資有価証券がなお増加していれば、この見方は成立する。
論点 02 · 成長余地
過去最高の受注残は持続的な走路か、波のある案件か。

同社は受注し、施工しながら売上に変える。327.7億円の受注残高は獲得済みの仕事だ。論点は、これがインフラ更新の安定したパイプラインを映すのか、それとも数件の大型単発契約が成長を実際以上に持続的に見せているのかである。

強気 過去最高の受注残高327.7億円を挙げる。第1四半期で前年同期比19.6%増、4期連続の最高益を背景とする。需要は構造的だ。日本は老朽化した上下水道プラントを更新し脱炭素を進めねばならず、これがバイオメタネーション・PFAS除去・省エネ建築工事を生む。同社の長期ビジョンはFY2030に売上600.0億円・営業利益80.0億円を掲げる。エンジニアリング売上が利益率を落とさず受注残を消化していけば、この見方は成立する。
弱気 成長には波があるという見方。第1四半期の受注は40.5%増だが、製造事業の27億円の海洋種苗生産案件1件がその数字を水増しし、エンジニアリング売上は当四半期で実際には減少した。同社の有資格技術者378名が一度に施工できる仕事量を制約する。新事業領域を開く手段であるはずのM&Aは前計画で過少利用に終わり、1.0〜2.5億円の目標に対し約0.2億円の支出にとどまった。単発案件を除いた実質のエンジニアリング売上が軟調なままなら、この見方は成立する。
論点 03 · 荏原との関係
荏原との関係は堀か、それとも依存か。

荏原実業は荏原製作所製ポンプ・空調機器の正規販売代理店であり、自社プラント向けに荏原グループから機器を仕入れる。荏原製作所の持株は0.24%にすぎず親会社ではない。論点は、この関係が事業を守るのか、それとも自社で決められない条件にさらすのかである。

強気 2つの緩やかな堀があるという見方。第一に、荏原グループの販売代理権は安定し資本のかからないチャネルで、商社事業は売上の27%を営業利益率16.7%で稼ぐ。第二に、認証・長い実績リスト・378名の技術者・行政採用の研究に支えられた80年の官公需上下水道の地盤は、新規参入者が早期に模倣できない。いずれも同社が既に担う仕事から競合を遠ざける。商社とエンジニアリングの利益率が景気を通じて維持されれば、この見方は成立する。
弱気 堀に見せた依存だという見方。同社はFY2025に荏原グループから42.3億円の機器を仕入れ、約30億円の買掛を負った。荏原製作所は販売条件を定めながら持株は0.24%にすぎず、関係が不利に転じ得る。官公需のプラント工事は競争入札で獲得され、自治体予算に制約される。荏原の販売契約に変更が生じるか、商社事業の利益率が一段下がれば、この見方は成立する。
03 · カタリスト

資本効率のレバー

増益を伴わずとも、経営陣が現在の割安の理由を減らせば倍率は上がり得る。以下の3つの変化はいずれも主に経営陣の判断にかかっている。

レバー 01 · 資本政策
124億円のネットキャッシュと93.5億円の投資有価証券を活かす
遊休資本と還元額(億円)
ネットキャッシュ
124億円
投資有価証券
93.5億円
自己株買い枠
10.0億円
自己株買い実施済
7.3億円
自己株買いは貸借対照表に残る現金・有価証券に対してなお小さい
ネットキャッシュは時価総額の21%に相当し、投資有価証券はほとんど稼がないため、双方を減らす信頼できる方針は株主に帰属する価値を引き上げる。10億円の自己株買い(6月初時点で7.3億円実施)と40%へ引き上げた配当性向目標は端緒だが、124億円のネットキャッシュ+93.5億円の有価証券に対して小さい。資本還元の枠組み、目標現金残高、政策保有株の縮小工程を示せば、単発の施策が投資家の信頼できる方針に変わる。確認材料はFY2026決算でより明確な資本還元の枠組みが加わるか。
経営の負担
取締役会決議1つ
最短の契機
FY2026決算 · 2027年2月
レバー 02 · 成長
328億円の受注残をFY2030ビジョンの600億円へ転換する
受注残高と長期ビジョンへの道筋(売上・億円)
受注残高(1Q)
328億円
FY2026計画
440億円
FY2027計画
450億円
FY2030ビジョン
600億円
受注残は足元の売上を賄うが、FY2030ビジョンへの段差には新事業領域が要る
過去最高の328億円の受注残高は既に足元の売上を賄うため、問いはFY2030ビジョンの600.0億円までの差を何が埋めるかである。インフラ更新と脱炭素が有機的な基盤を支えるが、同社自身の計画は目標到達にM&Aと新事業領域を要し、その手段は前計画で過少利用だった(前計画で約0.2億円の支出)。四半期ごとの受注とM&Aの発表が、受注残の消化と新領域への取り組みが本物かを示す。確認材料は単発案件を除いてもエンジニアリング売上の成長が続くか。
経営の負担
成長・研究開発投資
最短の契機
四半期ごとの受注
レバー 03 · 開示
7倍の倍率とROCE22%の差を明確な開示で縮める
荏原実業の予想EV/営業利益の位置
荏原実業(6328)
7.2倍
月島HD(6332)
7.3倍
メタウォーター(9551)
10.5倍
クリタ(6370)
17.1倍
オルガノ(6368)
18.8倍
荏原実業はプラント会社と並ぶ価格で、プレミアム水処理銘柄を大きく下回る
荏原実業は、全社利益率が同等以上で無借金にもかかわらず、プラント会社と並び、プレミアム水処理銘柄の半分未満で取引されている。資本コスト経営の方針、セグメント別の受注開示、政策保有株の縮小工程、資本還元の枠組みを示せば、投資家は事業を水処理銘柄の水準により近く評価できる。資本コストを意識した経営を求める東京証券取引所の要請と、株主名簿のアクティビストは、いずれも変化を促す力である。確認材料は統合報告書か計画の更新でこれらの開示が加わるか。
経営の負担
開示・方針
最短の契機
統合報告書 · 2026年
04 · バリュエーション

シナリオ

¥2,446(2026年6月30日)、FY2026会社計画の営業利益63.0億円に対し、約457億円の企業価値は予想EV/営業利益で約7.2倍に相当する。以下の3シナリオはJIIの試算であり会社計画ではない

弱気シナリオ
¥2,050 – ¥2,350
−16% 〜 −4%
想定倍率 · 予想EV/営業利益 ~6〜7倍
弱気では、市場は荏原実業を過剰資本のまま扱い続ける——倍率は~6〜7倍に留まり、現金・有価証券は遊休のまま、小型株の割引が残る。
成立の条件
  • 現金・有価証券は遊休のまま、新たな資本方針なし。
  • アクティビストが次の総会で再び敗れる。
  • 単発案件の剥落で受注残が正常化。
  • 売買の薄さで小型株需要が弱いまま。

ここでも下値はネットキャッシュに支えられる——現在の時価総額の約21%に相当し、戦略的な評価で意味を持つ緩衝となる。

基本シナリオ
¥2,900 – ¥3,400
+19% 〜 +39%
想定倍率 · 予想EV/営業利益 ~8〜10倍
自己株買いが続き、経営陣が資本効率の一手——政策保有株の縮小か資本還元の枠組みの明示——を実行し、倍率がプラント会社の上限へ近づく。
成立の条件
  • 自己株買いが続き、配当性向目標40%が維持。
  • 受注残の消化でROCEが20%前後を維持。
  • 資本効率の一手:政策保有株の縮小か枠組み。
  • EV/営業利益が高い1桁台へ拡大。
強気シナリオ
¥3,700 – ¥4,300
+51% 〜 +76%
想定倍率 · 予想EV/営業利益 ~11〜13倍
現金・有価証券が活用され、投資家が事業を水処理銘柄の水準へ評価し直し、受注残の消化とM&AがFY2030ビジョンを裏づけ始める。
成立の条件
  • 現金・有価証券が還元か成長に投じられる。
  • 倍率が水処理銘柄の水準へ評価し直される。
  • 受注残の消化とM&AがFY2030ビジョンを支える。
  • 自己株買いの加速でネットキャッシュが減少。

本源的価値はさらに上にあり得る——下のSOTPは、投資家が現金・有価証券の大半を満額で評価すれば¥2,920〜4,025を示す。

サム・オブ・パーツ · 事業価値
エンジニアリング・商社・製造 — 3つの水・環境事業
FY2026予想営業利益¥63.0億
FY2026予想売上 · 成長率¥440.0億 · +6.8%
全社営業利益率~14.3%(FY25 14.9%)
受注残高(1Q)¥327.7億 · +19.6%
想定EV/営業利益8〜12倍
想定事業EV ~504〜756億円(8〜12倍)——基本シナリオ9〜10倍で約567〜630億円。
サム・オブ・パーツ · 現金+有価証券
ネットキャッシュと、縮小が進む投資有価証券のポートフォリオ
ネットキャッシュ(FY26 1Q)¥123.6億
借入金¥15.23億
ネットキャッシュ/時価総額21%
投資有価証券¥93.49億
有価証券への割引20〜30%
ネットキャッシュは満額、有価証券は政策保有・流動性の割引後で~65〜75億円
類似企業倍率 · 予想EV/営業利益
国内の水・環境エンジニアリング(ライブ価格、各社のネットキャッシュ/ネット負債でEV算出)
荏原実業(6328)~7.2倍
月島ホールディングス(6332)~7.3倍
メタウォーター(9551)~10.5倍
栗田工業(6370)~17.1倍
オルガノ(6368)~18.8倍
2026年6月30日時点のライブ・スナップショット。メタウォーター・栗田・オルガノはネット負債。前澤工業(6489)は流動性不足で除外。
株主価値ブリッジ · 1株あたり試算
事業EV+ネットキャッシュ+有価証券 ÷ 自己株控除後株式数
事業EV(FY26予想営業益8〜12倍)¥504〜756億
+ ネットキャッシュ(満額)¥123.6億
+ 有価証券(割引後)¥65〜75億
= 株主価値¥693〜955億
÷ 自己株控除後株式数23,727,118株
= 1株あたり試算¥2,920〜4,025
現値¥2,446比+19% 〜 +65%
中心値は1株約¥3,400。JIIの試算であり予測・目標ではない。自己株買いで株数がこの前提を下回って減れば1株価値は上がる。
重要なご注意

本資料は投資助言ではありません。

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