要点

  • 東証は2024年1月から、プライム市場・スタンダード市場の会社を対象に、要請への対応状況を示す開示企業一覧表を毎月公表している。
  • 2025年1月以降、「検討中」として一覧に載れるのは原則6か月までとなった。開示を更新した日や、機関投資家からの連絡を希望するかどうかも表示される。
  • 2026年1月以降は、コーポレート・ガバナンス報告書に記載された各社の開示内容も一覧上で確認できる。参加の有無だけでなく、中身の比較がしやすくなった。

なぜ一覧表を公表するのか

2023年3月の要請は、規則上の義務ではない。東証が各社の計画を審査して合否をつけたり、PBRやROEの数値目標を達成できない会社に罰金を科したりする制度でもない。

そこで東証が採ったのが、対応状況を市場参加者に見えるようにする方法である。会社が何を開示しているかを一覧化すれば、投資家は同業他社を横並びで比較できる。会社側も、自社だけが対応を先送りしていないか、初回開示後に更新が止まっていないかを確認できる。

この仕組みでは、東証自身が開示の優劣を一行ずつ採点する必要はない。公表された情報をもとに、投資家が対話、議決権行使、投資判断を行う。その比較可能性が、会社に開示と実行の改善を促す。

一覧表の変遷

時期 主な変更
2023年3月31日 プライム・スタンダード全社に要請を公表
2023年10月 開示企業一覧表を公表する方針を予告
2024年1月 初回の一覧表を公表。以後、原則として毎月15日を目途に更新
2025年1月 更新日、機関投資家からの連絡希望、「検討中」の6か月上限を導入
2026年1月 CG報告書における各社の開示内容を一覧表に掲載
2026年8月 投資家アンケートをもとに「取組みの進展が見られる企業」の一覧を公表

一覧表は、各月末時点で直近に提出されたコーポレート・ガバナンス報告書をもとに作成される。2026年7月末時点の一覧は8月14日に公表されている。このように、最新状況は常に更新されるため、記事中の社数よりも東証の現行ファイルを確認する方が確実である。

現在の分類方法

各社は、CG報告書の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」欄で、開示内容を選択する。

一覧上の扱い CG報告書での選択 意味
開示済 「取組みの開示(初回)」または「取組みの開示(アップデート)」 取組みまたはその更新を開示している
検討中 「検討状況の開示」 具体的な取組みの開示に向けて検討している。掲載は原則6か月まで
一覧外 上記に該当しない 一覧表上、開示済・検討中として確認できない

「開示済」は、内容が十分であるという認定ではない。数行の抽象的な説明でも、所定の形で開示されれば一覧上は開示済となり得る。反対に、詳細な資料を公表していても、CG報告書の参照先や選択項目が適切でなければ一覧に正しく反映されない場合がある。

IR担当者は、資料を作るだけでなく、CG報告書と一覧表の表示が一致しているかまで確認する必要がある。

6か月ルールの意味

当初の「検討中」は、会社が十分な分析を行う時間を確保するための中間状態だった。しかし、期限がなければ、検討中のまま具体的な開示を先送りできる。

東証は2025年1月から、検討中として一覧に掲載する期間を6か月に限定した。これは、6か月以内に必ずPBRを改善するという意味ではない。会社が少なくとも、現状分析、課題、今後の検討方針を具体的な開示へ進めることを期待したものだ。

検討に時間がかかる場合でも、何を分析しているのか、取締役会でいつ議論したのか、いつまでに次の開示を行うのかを示す方が、単に「検討中」と記すよりも投資家の理解を得やすい。

一覧表で確認できること

一覧表には、会社名、証券コード、市場区分、業種、開示状況、初回開示日、更新日などが掲載される。2025年以降は、機関投資家からの連絡を希望する会社も確認できる。2026年以降は、CG報告書に記載された開示内容へのアクセスもしやすくなった。

実務では、次の三点を見るとよい。

1. 初回開示日と更新日の間隔

初回開示後に更新がない会社は、一度資料を作って対応を止めている可能性がある。中期経営計画、資本政策、事業ポートフォリオが変われば、資本コストに関する開示も見直す必要がある。

2. 同業他社との違い

同じ業種・規模の会社でも、資本コストの数値、ROIC管理、事業別の改善策、株主還元方針の具体性には差がある。一覧表は比較対象を見つける入口として使える。

3. 「開示済」の中身

状態だけで判断せず、実際の記載を読む。資本コストの根拠、現状分析、目標、施策、進捗、対話を踏まえた更新がそろっているかを確認する。

一覧表を補う資料

東証は一覧表だけでなく、開示の質を考えるための資料を継続的に公表している。

  • 投資家の視点を踏まえたポイント:投資家が何を重視しているかを整理。
  • 事例集(プライム・スタンダード):実際の開示から参考事例を紹介。
  • 投資者の目線とギャップのある事例:抽象的な説明、PBR目標の単独提示、株主還元への偏りなどを整理。
  • 課題解決に向けた企業の取組み事例集:開示文言ではなく、社内でどう課題を解決したかを紹介。
  • 2026年の企業・投資家アンケート:対話の課題と、投資家が進展を評価する会社を可視化。

一覧表が「誰が開示しているか」を示すのに対し、これらの資料は「何が伝わる開示か」「どのような実行が評価されるか」を示す。両方を合わせて読む必要がある。

公表による規律の強みと限界

公表方式の強みは、全市場参加者が同じ情報を使えることにある。行政処分を待たず、同業比較、投資家対話、社内説明にすぐ使える。開示が進むほど、未開示や更新停止が目立ちやすくなる。

一方で、一覧表に載ること自体が目的化する危険もある。状態区分は開示の質や実行成果を保証しない。数字を示していても、前提が不明であったり、目標と施策がつながっていなかったりすれば、投資家の評価は高まらない。

したがって、一覧表は合格者名簿ではなく、対話の出発点と捉えるのが適切である。

IR担当者への示唆

  1. 毎月の一覧表で自社の表示を確認する。 状態、初回開示日、更新日、リンク先に誤りがないかを見る。
  2. 「検討中」は6か月以内に次の段階へ進める。 社内では5か月程度を期限として、CG報告書更新まで含めて管理する。
  3. 初回開示後の更新方針を決める。 少なくとも年1回、中計や資本政策の変更時には随時更新する。
  4. 同業10~20社を比較する。 状態だけでなく、資本コストの根拠、目標、施策、進捗の具体性を比べる。
  5. 一覧掲載を成果とみなさない。 投資家との対話と経営の実行に使われて初めて、開示の意味が生まれる。

出典・参考資料

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