要約 - 日本のスチュワードシップ・コードは、神作裕之氏を座長とする金融庁の有識者検討会によって2014年2月26日に確定した。7つの原則をコンプライ・オア・エクスプレインで運用する。GPIFは12週間後にこれを受け入れた。 - コードはその後三度改訂された ―― 2017年5月(原則8の追加によりサービス・プロバイダーをカバー、議決権行使の個別開示を要求)、2020年3月(ESGの統合、株式以外の資産クラスへの対象拡大)、そして2025年6月(協働対話を軸とした第三次改訂)。 - スチュワードシップ・コードと2015年のコーポレートガバナンス・コードは、車の両輪である ―― 前者は投資家の行動を、後者は発行体の行動を規律する。いずれも金融庁が所管し、いずれも原則主義に立ち、いずれもコンプライ・オア・エクスプレインで運用される。

「車の両輪」というメタファー

両コードを所管する金融庁の有識者検討会は、繰り返し使う表現がある ―― 車の両輪である。スチュワードシップ・コードは、企業と投資家の対話の投資家側を規律する。コーポレートガバナンス・コードは発行体側を規律する。片輪だけでは車は進まない。両輪が揃い、かつ水準として大まかに比肩していて初めて、改革プログラムが想定した対話が資本効率の高い成果を生み出す。

スチュワードシップ・コードのほうが16か月早く施行され、本稿の焦点となる。2015年のコーポレートガバナンス・コードについてはテーマ2.1で詳しく扱う。

2014年の策定

2013年8月、金融庁は「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」を設置し、東京大学法学部の神作裕之教授が座長を務めた。検討会のメンバー17名は、運用機関(野村アセットマネジメント、大和アセットマネジメント、ブラックロック・ジャパン)、アセットオーナー(年金連合会)、議決権行使助言会社(ISS)、法務省、内閣官房、経産省、東証から選出された。

検討会は2013年8月から2014年2月にかけて6回開催された。パブリックコメントには日本語26件、英語19件の意見が寄せられた。2014年2月26日にコードが確定し、正式公表は4月7日となった。

スチュワードシップに関するコードの定義は、ほぼそのままの形で、その後のあらゆる日本のガバナンス文書で繰り返されることになる。

「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に加え、運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(対話)などを通じて、当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、顧客・受益者(最終受益者を含む。以下同じ。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味する。

この定義の三つの要素が、運用上の意味を持つ。

  1. 「中長期」 ―― 短期の議決権行使に焦点を絞ったスチュワードシップ・ドクトリンを排除している。
  2. 「建設的な目的を持った対話」 ―― 対話を裁量的な活動ではなく、信認義務として位置付けている。
  3. 「投資先企業やその事業環境等に関する深い理解」 ―― 2014年以前は外国人投資家が常態的に行い、日本の機関投資家が行ってこなかった種類の、個別企業に対する調査と対話を授権している。

当初の7原則

2014年版のコードは、それぞれに詳細な指針が付随する7つの原則で構成されている。

  1. 方針の公表 ―― 機関投資家はスチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  2. 利益相反の管理 ―― 機関投資家はスチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  3. 点検 ―― 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
  4. 対話 ―― 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、認識の共有を図るとともに問題の改善に努めるべきである。
  5. 議決権行使方針と結果公表 ―― 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つべきである。議決権行使方針は、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
  6. 顧客・受益者への報告 ―― 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
  7. 能力・体制の整備 ―― 機関投資家は、投資先企業とその事業環境等に関する深い理解、ならびにスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

GPIFは公表から12週間後の2014年5月30日にコードを受け入れた。受入機関数はその後、2015年半ばまでに127、2016年12月には214、2020年5月には281、そして2024年12月31日時点で333へと推移している(金融庁公表リスト)。

コラム ― 「コンプライ・オア・エクスプレイン」がハードルールとどう異なるか。 英国のキャドベリー委員会が1992年に導入したコンプライ・オア・エクスプレインは、原則を規範として維持しながら実装の柔軟性を許す仕組みである。受入機関は、原則どおりに遵守(コンプライ)するか、遵守しない場合にその理由を公的に説明(エクスプレイン)するかを選ぶ。形式としてはどちらも許容される。規律は、説明そのものに対する市場の精査から生じる ―― 逃げ口上に見える「説明」は投資家の質問とレピュテーション上の代償を招く。日本はこのドクトリンを英国キャドベリー伝統から直接輸入した。スチュワードシップ・コード(2014)とコーポレートガバナンス・コード(2015)は、いずれもこれに基づいて運用されている。

日本が何を借用し、何を反転させたか

英国の2010年スチュワードシップ・コード(2012年改訂)が明示的な源典であった。日本版コードの7原則構造は、英国版の7原則を概ね踏襲している。実質的に異なる選択は四つある。

選択 英国スチュワードシップ・コード 日本スチュワードシップ・コード
所管 財務報告評議会(FRC、独立した規制当局) 金融庁(金融規制当局)
受入機関の格付け 段階別リスト(2020年以降:Tier 1 / Tier 2) 単一の公開リスト
議決権行使助言会社 ESMA水準の別プロセスで対応 2017年以降、コードの範囲内(原則8)
アセットオーナーの説明責任 言及はあるが中核ではない 2017年改訂以降、強調されている

日本の選択は恣意的なものではない。金融庁がコードを所管することで、コードは金融規制の重心に近い位置にとどまり、FRC型の独立規制機関を構築する政治的複雑性を回避できる。単一の受入機関リストは、公的格付けを忌避する日本の規制文化を反映している ―― 金融庁は「より良いもの」を格付けするより、「存在するもの」を名指しすることを好む。議決権行使助言会社を早期に取り込んだのは、日本の市場構造を反映している。ISSやGlass Lewisの推奨は、東証の議決結果を、英国FTSE100の結果よりも決定的に動かしてきた ―― 分散した日本の取締役会は歴史的に、外国人保有株主との独自のコミュニケーション基盤を欠いていたからだ。アセットオーナーの説明責任が重要なのは、日本最大のアセットオーナーであるGPIFがすべて外部運用機関を経由して運用しており、金融庁としてはチェーンを端から端まで規律する梃子が必要だからである。

4世代の改訂 ― 差分表

観点 2014年(当初版) 2017年(第一次改訂) 2020年(第二次改訂) 2025年(第三次改訂)
原則の数 7 8 8 8(指針改訂)
新設原則 原則8:サービス・プロバイダー(議決権行使助言会社、年金コンサルタント)
議決権開示 総括ベースの開示を想定 個別企業ベースの議決権行使結果の開示を要求 再確認・厳格化 再確認
サステナビリティ/ESG 暗黙的な記述のみ 暗黙的な記述のみ スチュワードシップ責任の定義に「サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)」を明示 2020年のESG位置付けを継承、SXの強調
対象資産クラス 日本上場株式 日本上場株式 株式以外の資産クラス(債券、オルタナティブ)に拡大 2020年の範囲を継承
アセットオーナーの説明責任 言及あり 強化:アセットオーナーは運用機関に対する明確なスチュワードシップ期待を設定すべき さらに強化 さらに強化
協働対話 容認、奨励はせず 同左 奨励 正当な手段として明示的に位置付け(2024年以降のワーキング・グループ指針を統合)
確定日 2014年2月26日 2017年5月29日 2020年3月24日 2025年6月
実装期限 2020年9月末 2025年末/2026年初

2017年改訂で実際に何が変わったか

2017年改訂は、日本語44件・英語23件の意見が寄せられたパブリックコメントを経て2017年5月29日に公表された。運用上の変更は三点である。

  1. 原則8の追加。 議決権行使助言会社および年金コンサルタントに対し、利益相反の管理方法、投資チェーンへの貢献、経営との対話を開示することを求めた。
  2. 議決権行使結果の個別開示化。 受入機関は、カテゴリー別の集計ではなく個別企業ベースで議決権行使結果を開示することが必要になった。英国FRCが同等の要件を採用するのは2020年改訂で、日本のコードが英国のコードを追従するのではなく先行した、稀有な事例の一つである。
  3. アセットオーナーと運用機関の責任分担の鮮明化。 アセットオーナーは、委託先の運用機関に対し明確なスチュワードシップ期待を設定する。運用機関はその期待を実装する。GPIFはこの枠組みを使い、約25社の外部運用機関に対し、2017年以降、個別議決権行使結果の公表を要求した。

2020年改訂で実際に何が変わったか

2020年3月24日に確定した2020年改訂は、コードを受け入れた日本の機関投資家にとって、ESGが運用上拘束力を持った瞬間である。コード本文は改訂され、「スチュワードシップ責任」は今や、「運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)」の考慮を要求する。2020年以前、ESGは受入機関が望めば対話できるトピックだった。2020年以降、ESGは対話の対象とせざるを得ない、あるいはなぜそうしないのかを説明しなければならないトピックとなった。

2020年改訂はまた、コードの対象を日本上場株式の枠を超え、債券やオルタナティブなど株式以外の資産クラスに拡大した。これにより、スチュワードシップは純粋な株式対話枠組みから、ポートフォリオ全体のドクトリンへと拡張された。機関投資家は受益者の資産を、資本構造を跨ぎ、資産クラスを跨いで保有しているという事実を認める形である。

受入機関には、改訂版基準に合わせて公的スチュワードシップ開示を更新するための6か月(2020年9月末まで)が与えられた。2020年版コードを2017年版に対する見え消しで示した文書は、金融庁が公表している:https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20200324/02.pdf ―― 特定の指針項目がどの改訂で導入されたかを確認したい読者は、この変更履歴つき文書を参照されたい。

2025年改訂が行っていること

2025年6月の改訂は ―― 本テーマ1の歴史的な対象範囲を超えるが、完結性のため言及しておく ―― 金融庁検討会が2023年から2024年にかけて行った協働対話と、日本のスチュワードシップにおける投資家による集団行動の位置付けに関する作業の上に立つ。本カリキュラムのテーマ5.7で2025年改訂を詳しく扱う。

「日本の上場企業の成長と競争力は、二つのコード ―― 機関投資家を規律するスチュワードシップ・コードと、上場企業を規律するコーポレートガバナンス・コード ―― が並行して機能することに依存する。両コードは、資本市場改革の車の両輪である。」 ― 金融庁『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』の継続的立場表明(意訳)

コードの執行 ― 任意の受入・公的な説明責任

すべての東証上場企業に自動的に適用されるコーポレートガバナンス・コードと異なり、スチュワードシップ・コードは任意である ―― 機関投資家は受入の可否を自ら選ぶ。規律は次の三つのメカニズムから生じる。

  1. 受入機関リストの公開。 金融庁は受入機関のリストをウェブサイトで公表し、四半期ごとに更新する。2024年12月時点で333機関が受け入れている。意味のある規模の日本の運用機関が受け入れていないとすれば、顧客と報道機関からの質問に即座に晒される。
  2. GPIFの運用機関選定プロセス。 GPIFは、外部運用機関に対してコード受入と個別議決権行使結果の公表を要求する。GPIFは日本の運用業界における最大の委託元であるため、この要件はGPIFマネーを希望するすべての運用機関にとって事実上の市場義務となっている。
  3. アクション・プログラムと開示レビュー。 金融庁の『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』は2015年から2024年にかけて29回以上開催され、年次のコーポレートガバナンス改革アクション・プログラムを公表している。同プログラムは ―― 時にはカテゴリー単位で、時には個別事例として ―― 受入機関の実務のうち会議が不十分とみなす領域を名指しする。

この組み合わせは、ハードロウでも純粋なノルムでもない、執行アーキテクチャを生み出している。それは、キャドベリー委員会が発明したアーキテクチャを、日本の市場構造に適合させたものに他ならない。

IR担当が押さえるべき含意

  1. 上位20株主のうち、誰がコード受入機関かを把握する。 最新のリストは金融庁が公表している。受入機関からの対話・レターはコードの権威を背負っている。非受入機関のレターはそうではない。この非対称性は、対話・カレンダーの優先順位付けに有用である。
  2. 保有上位の受入機関のスチュワードシップ報告書を読む。 各機関は方針、個別企業ベースの議決権行使結果、対話の要旨を開示することが求められている。自社の名前がそれらの文書に登場する可能性があり、登場する形は、彼らがあなたに直接告げる前に、彼らがあなたをどう評価しているかを語る。
  3. 2020年のESG改訂は拘束力ある文脈として扱う。 自社の株式を保有するスチュワードシップ・コード受入機関は、原則主義の義務として、サステナビリティに関する対話を行う立場にある。自社のサステナビリティ報告がSSBJ準拠の質問に答えられないなら、そのギャップが必ず対話の対象になる。
  4. CEOブリーフィングでは改訂間の差分を伝える。 2015年にコードを学んだ取締役は、原則8(2017)、ESG改訂(2020)、2025年協働対話指針を知らない可能性がある。CEOブリーフィングは「日付付き」のほうが有用である。
  5. 金融庁アクション・プログラムを先行指標として使う。 年次のアクション・プログラムは、来年金融庁検討会が押し進めようとするものについて、最も信頼できる単一のシグナルである。ガバナンス改革に関する社内会議の前に最新版を読むことは、90分の投資で、外部アドバイザーの大半のアウトプットを上回るリターンを生む。

出典・参考資料

  • 金融庁『「責任ある機関投資家」の諸原則「日本版スチュワードシップ・コード」』策定公表(2014年):https://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2.html
  • 金融庁 日本版スチュワードシップ・コード最終本文(2014年2月、本文PDF):https://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2/04.pdf
  • 金融庁 2017年改訂版コード公表:https://www.fsa.go.jp/news/29/singi/20170529.html
  • 金融庁 2017年改訂版コード本文(PDF):https://www.fsa.go.jp/news/29/singi/20170529/01.pdf
  • 金融庁『「日本版スチュワードシップ・コード」(再改訂版)の確定について』(2020年3月24日):https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20200324.html
  • 金融庁 2020年改訂版コード本文(PDF):https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20200324/01.pdf
  • 金融庁 2020年改訂版コード(見え消し付き):https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20200324/02.pdf
  • 金融庁「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(検討会一覧):https://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/index.html
  • 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」:https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/index.html
  • GPIF『日本版スチュワードシップ・コード受入れについて』:https://www.gpif.go.jp/investment/pdf/adoption_Japans_stewardship_code.pdf
  • GPIF『2024–2025年度 スチュワードシップ活動報告』:https://www.gpif.go.jp/investment/Stewardship_Activities_Report_2024-2025.pdf
  • 内閣官房(首相官邸)『日本版スチュワードシップ・コード』トピックページ:https://japan.kantei.go.jp/ongoingtopics/pdf/2014/140324_stewardship.pdf(英語版)

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