4区分から3区分へ ― 2022年4月の市場再編

要点 - 2022年4月4日、東京証券取引所は旧来の4市場区分(東証一部、二部、マザーズ、JASDAQ)を、コンセプトを明示した3区分 ― プライム、スタンダード、グロース ― に置き換えた。2018年10月の東証の懇談会設置に始まり、2019年に学習院大学の神田秀樹教授が座長を務めた金融審議会の専門グループに引き継がれた、14か月に及ぶ正式な政策レビューの集大成である。 - 初日の振り分けは3,771社のうちプライム1,839社/スタンダード1,466社/グロース466社。プライム単独で全体の49%を占め、再編対象であったはずの肥大化した東証一部とほぼ同じ姿となった。 - 同時に、「流通株式」の定義から政策保有株を除外する見直しを行い、プライムの流通株式時価総額基準を100億円に引き上げ、さらにプライム限定のコーポレートガバナンス・コード上乗せ義務(独立社外取締役3分の1以上、英文開示、TCFD整合の気候開示)を区分選択の上に重ねた。


なぜ4区分制度は廃止されなければならなかったのか

2013年の東証・大証の現物市場統合から9年間、東証は2つの取引所から受け継いだ4つの重複した市場区分のもとで運営されていた。東証一部は大型・優良企業、東証二部は中型企業、マザーズ(東証側の新興市場)は初期段階の成長企業、JASDAQ(スタンダードとグロースに分かれ、大証から引き継がれた)はその他全てを受け持つ建てつけだった。統合時には両取引所の構造をそのまま温存する選択がなされ ― JPXは当時「上場会社・投資家への影響を回避するため」と説明した ― 結果として日本は先進国で最も雑然とした市場区分メニューを抱えることになった。

構造的な問題は3つあった。第一に、東証一部は選別機能を失っていた。2022年3月2日時点で東証2,653社のうち2,180社、約82%が「最上位」区分に滞留しており、品質シグナルとしてのラベルはほぼ意味を成さなくなっていた。これに対し東証二部は473社、社数で見れば一部の4分の1にも満たない。第二に、4市場のコンセプトは互いに溶け合っていた。東証二部、マザーズ、JASDAQはいずれも中堅・成長段階の発行体を異なる角度から重複的に受け持ち、明確な区別が存在しなかった。第三に、そして最も損害が大きかったのは、東証一部への指定替え基準が新規上場基準よりも緩かった点である。JPX自身がこの逆転を構造的欠陥として挙げた。マザーズや東証二部にIPOした企業が、より緩い基準で一部に「昇格」できる仕組みは、上場後の継続的改善圧力を骨抜きにしていた。

この上に乗っていたのがTOPIXである。東証一部の構成銘柄をそのまま指数化していたため、機械的なリンクによってパッシブ資金は東証一部入りを果たした企業に流れ込んだ。2019年12月の金融審議会ワーキング・グループ最終報告書の表現を借りれば、指数は「広範な国勢調査に近いものとなっており、選別された指数の性格を失っていた」。ピーク時の構成銘柄は約2,200。TOPIX構成銘柄の推定60%が資本コストを上回るリターンを稼げていないとの試算が、ちょうどアベノミクスのガバナンス改革が日本の取締役会に資本効率の意識を浸透させようとしていた時期に突きつけられた。

政策レビュー ― 諮問グループから「令和報告書」へ

改革は2段階で進んだ。東証側の第一段階は2018年10月、「東京証券取引所における現物市場の市場構造の在り方等に関する懇談会」の設置に始まる。同年12月にはコンサルテーション・ペーパーを公表し、2018年12月21日から2019年1月31日までパブリック・コメントを実施。約90通の書面意見と70件の個別ヒアリングを集約し、2019年3月の「現状の課題に関する整理」につなげた。

続く正式レビューは金融庁側で行われた。金融審議会の「市場構造専門グループ」(座長:学習院大学法学部・神田秀樹教授)が2019年5月から12月にかけて6回の会合を重ね、2019年12月27日に最終報告書『令和時代における企業と投資家のための新たな市場構造の在り方』を公表した。タイトルは意図的なものである。報告書は市場区分の見直しを単なる取引所運営の技術論ではなく、令和という新時代の国家プロジェクトとして位置づけた。3区分でそれぞれ異なるコンセプトを持つ設計を支持し、TOPIXを区分から切り離す指数改革を求め、東証が2020年2月の「市場構造の見直しに向けた検討の概要」で具体化していく骨格を定めた。

金融庁の関与は構造的に重要だった。レビューを単独の取引所ルール改正ではなく金融審議会に乗せたことで、新設計は政治的な後ろ盾を得て、実質的に厳格な上場維持基準と、区分選択の上に重ねるプライム限定のCGコード義務を導入できた。

2022年4月4日の発足 ― 3つのコンセプト、3つの基準

2022年4月4日の再編は、4区分を3つのコンセプト定義型区分に置き換えた。

  • プライム市場 ― 「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた経営を行う企業向け」。基準は流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、株主数800人以上、売買単位数2万単位以上、1日平均売買代金2,000万円以上、直近2年間の利益25億円以上(または時価総額100億円かつ売上高100億円)。これに加え、プライム上場会社は2021年6月導入のプライム限定CGコード補充原則のコンプライ・オア・エクスプレインを求められる。
  • スタンダード市場 ― 「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えた企業向け」。流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上、株主数400人以上。
  • グロース市場 ― 高い成長可能性を有する企業向け。流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上、株主数150人以上。

初日の構成は、政策当局が打破したかったまさにその肥大した姿に近かった。東証上場3,771社のうち、プライム1,839社(49%)、スタンダード1,466社(39%)、グロース466社(12%)。プライム500社程度を期待していた海外投資家からは即座に批判が上がった。理由は明白で、プライム選択企業のうち約16%が、本来基準を満たさないまま「経過措置」によって受け入れられていたためである(この崖の詳細は3.3で扱う)。

旧4区分と新3区分のマッピング

移行は1対1のリネームではなかった。東証一部はプライムとスタンダードに分裂し、東証二部はスタンダードに集約され、マザーズとJASDAQグロースはグロースに、JASDAQスタンダードはスタンダードに合流した。主な流れは以下のとおり。

flowchart LR
    A["東証一部<br/>2,180社<br/>(2022年3月)"]
    B["東証二部<br/>473社"]
    C["マザーズ<br/>(東証側<br/>新興市場)"]
    D["JASDAQスタンダード<br/>(旧大証)"]
    E["JASDAQグロース<br/>(旧大証)"]

    P["プライム市場<br/>1,839社<br/>(全体の49%)"]
    S["スタンダード市場<br/>1,466社<br/>(全体の39%)"]
    G["グロース市場<br/>466社<br/>(全体の12%)"]

    A -->|"約1,700社(プライム基準<br/>充足または経過措置)"| P
    A -->|"約480社(プライム<br/>基準を断念しスタンダード)"| S
    B -->|"約470社"| S
    D -->|"約700社"| S
    C -->|"約430社"| G
    E -->|"約36社"| G

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    class A,B,C,D,E oldSeg
    class P,S,G newSeg

整理表は次のとおり。

旧区分(2022年3月以前) 新区分(2022年4月以降) 概算移行数
東証一部(大型・優良) プライム市場 約1,700社(基準充足または経過措置適用)
東証一部(基準未充足層) スタンダード市場 約480社 ― プライムの流通株式時価総額100億円基準を断念し、スタンダードを選択した企業群
東証二部(中型) スタンダード市場 約470社
マザーズ(東証新興) グロース市場 約430社
JASDAQスタンダード(旧大証) スタンダード市場 約700社
JASDAQグロース(旧大証) グロース市場 約36社
合計(2022年4月) 3,771社 → 1,839/1,466/466

このマップで注目すべき点は2つある。第一に、東証一部からスタンダードへの流れ(約480社)は静かではあるが重要なシグナルだった。東証一部企業の約22%が、プライム基準を守れない、あるいは守らないことを選び、コンプライアンスの明瞭さと引き換えに名目上の1段格下げを受け入れた。第二に、JASDAQスタンダードを新スタンダードに統合する一方、JASDAQグロースの行き先名を変えなかったことで、2013年統合以降残っていた旧大証由来の重複がようやく解消された。

すべてを変えた再定義 ― 「流通株式」

2022年の再編で、市場の姿そのものを区分名の変更以上に大きく変えたのは、流通株式の再定義であった。新定義のもとでは、国内の銀行、保険会社、事業法人が保有する株式は、持株比率の大小にかかわらず「流通株式」から除外される。地方銀行が保有する0.5%の戦略保有も、グループ会社が保有する30%のクロスホールディングも、扱いは同じ「非流通」となる。

これは東証が日本の政策保有株式を解体するために用いた構造的メカニズムである。直接禁止ではなく、上場維持基準という裏口からアプローチしたのだ。広範な政策保有株式を抱えるプライム上場会社は、解消するかスタンダードへの格下げを受け入れない限り、流通株式比率35%基準を満たせない。詳細は3.2に譲るが、ここでの要点は、区分の付け替えと流通株式の再定義は一体の政策パッケージであったということだ。再定義がなければプライムは緩い「ブランディング」にすぎなかった。再定義があったからこそ、プライムは日本の大企業の資本構成に対する拘束力ある制約となった。

プライム限定のコーポレートガバナンス・コード義務

区分発足の半年前、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂は、プライム上場会社のみに適用される補充原則を導入した。IRにとって最も重要なのは以下の項目である。

  • 独立社外取締役を3分の1以上(従来の「2名以上」という一般的期待から引き上げ。プライムは補充原則4-8により少なくとも3分の1を要求)。
  • 必要な情報の英文開示(補充原則3-1②) ― 海外機関投資家の長年の要請が、ついにコンプライ・オア・エクスプレインの対象となった。
  • TCFD整合の気候関連開示(補充原則3-1③) ― プライム上場会社の「適切な」サステナビリティ開示の中身が絞り込まれた。
  • 電子議決権行使プラットフォームの利用(補充原則1-2④) ― 株主総会向け。

これらの上乗せ規律により、区分選択は単なる時価総額の問題ではなく、ガバナンスの選択にもなった。プライムを選んだ企業は、流動性への野心を示すだけでなく、日本の上場企業に課された最も厳格なガバナンス体系に自発的にコミットしたことになる。

なぜ2022年の発足は「ラベルの貼り替え」と映ったのか

批判は即座に、そして辛辣に飛んできた。プライム1,839社という姿は、2022年1月の日経の表現を借りれば「ほぼ東証一部と変わらない」見え方だった。プライム500社程度を期待していた海外投資家からすれば、約16%もが基準未達のまま経過措置で滑り込んでおり、しかもその経過措置は当初「当分の間」適用するとされ、終期は定められていなかった

この批判が、東証が発足の3か月後の2022年7月に設置した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の原動力となった。そこから2025年3月の経過措置終了(3.3)、2023年3月の「PBR要請」(4.1)、そしてその後の日本のコーポレートガバナンス議論を規定してきた一連の改革が芋づる式に生まれた。換言すれば、2022年発足の欠陥のほうが、その成功よりも、その後の改革を強く駆動したのである。

IR担当者への示唆

  1. 区分選択はマーケティング・バッジではなくガバナンスのコミットメント。プライム上場は3分の1以上の独立社外取締役、英文開示、TCFD気候開示、電子議決権行使といったプライム限定のCGコード義務を伴う。IRは各義務を担当役員と内部コンプライアンス状況に対応づけて把握しておく必要がある。

  2. 流通株式の再定義こそ最大の変更点。銀行、保険、戦略保有先事業会社が一定の政策保有株式を持つ企業にとって、プライムの流通株式比率35%基準は事実上の拘束条件となる。これは上場基準の問題ではなく、資本構成の問題として扱うべきだ。

  3. プライムの意味は2022年と同じではない。当初のプライム1,839社のうち約16%は経過措置によって入った企業であり、その経過措置は2025年3月に終了する(3.3)。投資家はもはや「プライム上場」だけを品質シグナルとは見なさず、その裏側を見ている。

  4. TOPIX組入れはもはや機械的ではない。TOPIX改革の第2段階(2026年10月~2028年7月、3.4)により、指数組入れは区分から切り離される。流動性の高いスタンダード上場会社はTOPIXに入りうるし、流動性の乏しいプライム上場会社はTOPIXから外れうる。IR戦略は区分適格性と指数適格性を別々に組み立てる必要がある。

  5. 2022年改革は現在の改革サイクルの終着点ではなく出発点。PBR要請、開示企業リスト、価値創造に向けた取り組みのギャップ整理、グロース市場2030年改革、英文開示義務化 ― これらすべては3区分という土台の上に積み上げられている。区分を理解せずに、これらのいずれかを語ることはできない。

出典・参考資料

  • JPX「市場区分の見直しの概要」 https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/01.html
  • JPX「現物市場の市場構造の在り方等について」 https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/index.html
  • 金融庁「金融審議会「市場構造専門グループ」報告書」(2019年12月27日) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20191227.html
  • JPX「最終報告書の公表に当たって」 https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/1020/20191227-01.html
  • JPX「市場区分」 https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/market-segments/index.html
  • JPX「市場区分の選択結果の公表」(2022年1月11日) https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/20220111-01.html
  • JPX「上場維持基準(プライム市場)」 https://www.jpx.co.jp/equities/listing/continue/outline/01.html
  • 日本経済新聞「東証再編、東証一部とほぼ同じ姿に」(2022年1月)

関連記事

  • 2.3 ― 2021年改訂 ― プライム市場・サステナビリティ・多様性:区分発足の半年前に導入されたプライム限定の補充原則。
  • 3.2 ― 流通株式比率:区分基準を政策保有解消の装置に変えた再定義。
  • 3.3 ― 2025年3月の崖:「当分の間」の経過措置が、ハードな期限と改善期間制度に転じた経緯。
  • 3.4 ― TOPIX 2.0:TOPIX組入れを区分から切り離す指数改革。
  • 4.1 ― PBR<1は目標ではなく、市場の評決:2022年4月の区分構造の上に組み上げられた、2023年3