要点
- 流通株式比率は、市場で流通するとみなされる株式数を、上場株式数で割った比率である。プライムは35%以上、スタンダードとグロースは25%以上が上場維持基準となる。
- 国内の普通銀行、保険会社、事業法人などの保有株式は原則として流通株式から除かれる。ただし、保有目的が純投資で、直近5年以内の売買実績が確認できるなど、東証の要件を満たす場合は流通株式に含められることがある。
- 政策保有株主から自社株を買い取っただけでは、比率は直ちには上がらない。自己株式も上場株式数の分母に含まれるため、改善効果が出るのは、原則として消却した後である。
流通株式比率とは何か
流通株式とは、東証が上場基準の判定上、市場で売買される可能性が高いと認める株式である。日々実際に売買された株式だけを数える指標ではない。株主の属性、持株比率、保有目的などから、安定保有される可能性が高い株式を除外して算定する。
計算式は次のとおりである。
流通株式比率 = 流通株式数 ÷ 上場株式数 × 100
上場維持基準は、次の三つの形で流通株式を使う。
| 市場 | 流通株式数 | 流通株式時価総額 | 流通株式比率 |
|---|---|---|---|
| プライム | 2万単位以上 | 100億円以上 | 35%以上 |
| スタンダード | 2,000単位以上 | 10億円以上 | 25%以上 |
| グロース | 1,000単位以上 | 5億円以上 | 25%以上 |
流通株式時価総額は、流通株式数に、事業年度末以前3か月間の東証市場における日々の最終価格の平均値を掛けて算出する。流通株式数と流通株式比率は株主構成に左右され、流通株式時価総額はそれに株価要因が加わる。
何が流通株式から除かれるのか
現行制度では、主に次の株式が流通株式から除かれる。
- 上場株式数の10%以上を保有する株主の株式。ただし、投資信託や年金信託に組み入れられている株式など、一定の例外がある。
- 役員と特別利害関係者の保有株式。取締役、監査役、執行役、役員持株会のほか、役員の近親者、関係会社などが含まれる。
- 自己株式。
- 国内の普通銀行、保険会社、事業法人などの保有株式。持株比率が10%未満でも、原則として除外される。
最後の分類には例外がある。大量保有報告書や東証所定の保有状況報告書で、保有目的が純投資その他市場に流通する見込みが高い目的であることが明らかで、かつ直近5年以内の売買実績が確認できる場合には、東証が流通株式として認めることがある。ただし、10%以上を保有する株主や役員等に該当する場合は、この例外の対象にならない。
したがって、「銀行・保険会社・事業法人の株式は例外なく非流通」と理解するのは正確ではない。重要なのは株主の名称だけでなく、保有目的と売買実績を東証に立証できるかである。
2022年の見直しが持った意味
市場再編前から流通株式の考え方は存在した。しかし、2022年の制度では、国内の銀行、保険会社、事業法人などによる保有をより厳格に扱い、各市場の上場維持基準に流通株式数・時価総額・比率を組み込んだ。
制度上の直接の目的は、各市場にふさわしい流動性を確保し、投資家が売買しやすい市場をつくることである。一方、日本企業の株主構成に当てはめると、政策保有株式や取引関係に基づく安定保有が多い会社ほど、流通株式比率が低く算定される。このため、制度は結果として、政策保有株式の売却や創業家・親会社持分の市場放出を促す作用を持った。
これは、政策保有株式を直接禁止する仕組みではない。会社が政策保有の合理性を説明できたとしても、その株式が流通株式として数えられるとは限らない。ガバナンス上の保有合理性と、上場基準上の流動性は別の判定だからである。
旧制度との違いをどう捉えるか
| 観点 | 市場再編前 | 2022年4月以降 |
|---|---|---|
| 市場区分 | 市場第一部など、区分ごとの役割と維持基準の差が不明確 | プライム・スタンダード・グロースごとに流通株式基準を明示 |
| 安定保有株式 | 10%未満の銀行・保険・事業法人保有が流通株式に含まれる余地が比較的大きかった | 原則として除外し、純投資・売買実績を確認できる場合のみ例外的に算入 |
| プライム相当の比率 | 市場第一部にも35%基準はあったが、定義と維持制度が異なる | 厳格化した定義の下で35%以上を継続的に維持 |
| 判定 | 上場後の維持基準が新規上場基準より緩い | 事業年度末を基準に原則年1回判定し、未達なら改善期間へ |
表面上は35%という数字が同じでも、何を流通株式に数えるかが変われば、会社にとっての難易度も変わる。株主構成を変えていなくても、新しい定義で計算し直した結果、比率が大きく下がる会社が生じた。
流通株式比率は何で動くのか
流通株式比率を改善する方法は、分子である流通株式数を増やすか、分母である上場株式数を減らすかの二つである。ただし、どの資本政策でも比率が動くわけではない。
比率を改善しやすい施策
- 政策保有株主や創業家による市場売却・売出し:非流通株式が一般投資家に移れば、流通株式数が増える。
- 親会社・主要株主による持分売却:売却先が流通株主であれば、同様に分子が増える。
- 公募増資や第三者への広い分散売却:新株が流通株主に保有されれば、分子と分母の双方が増えるが、流通株式の増加率が高ければ比率も上がる。
- 非流通株式の自己株式取得と消却:取得時点では自己株式も非流通であり、分母に残るため比率は原則変わらない。消却して上場株式数が減った時点で改善する。
原則として比率を変えない施策
- 株式分割・株式併合:流通株式と上場株式が同じ割合で増減するため、通常、比率は変わらない。
- 非流通株主からの自己株式取得だけを行い、消却しない:非流通株式が自己株式に置き換わるだけである。
- 株価上昇:流通株式時価総額は上がるが、流通株式比率そのものは変わらない。
数字で確認する
発行済み・上場株式数が1億株の会社を考える。
| 保有者 | 株式数 | 流通株式に算入するか |
|---|---|---|
| 創業家 | 3,000万株 | しない(10%以上保有) |
| 取引銀行 | 500万株 | しない(政策保有) |
| 保険会社 | 400万株 | しない(政策保有) |
| 取引先事業法人 | 600万株 | しない(政策保有) |
| 自己株式 | 500万株 | しない |
| 国内外の機関投資家・個人 | 5,000万株 | する |
| 合計 | 1億株 | 流通株式5,000万株 |
この会社の流通株式比率は、5,000万株÷1億株=50%である。
その後の施策による変化を比べる。
| 施策 | 流通株式数 | 上場株式数 | 流通株式比率 |
|---|---|---|---|
| 何もしない | 5,000万株 | 1億株 | 50.0% |
| 保険会社が400万株を市場売却 | 5,400万株 | 1億株 | 54.0% |
| 会社が銀行から500万株を自己株取得、未消却 | 5,000万株 | 1億株 | 50.0% |
| 上記500万株を消却 | 5,000万株 | 9,500万株 | 約52.6% |
| 一般投資家向けに1,000万株を新規発行 | 6,000万株 | 1億1,000万株 | 約54.5% |
この表から分かるように、同じ「資本政策」でも流通株式比率への効果は大きく異なる。IR部門は、施策の名称ではなく、施策後に各株式が流通株式として数えられるかを確認しなければならない。
政策保有株式との関係
政策保有株式については、すでに複数の制度が働いている。
- 有価証券報告書では、銘柄ごとの保有目的や定量的な保有効果などの開示が求められる。
- コーポレートガバナンス・コード原則1.4は、保有方針、縮減方針、取締役会による個別検証を求める。
- スチュワードシップ・コードは、投資家に政策保有株式を含む資本配分について対話することを促す。
- 流通株式基準は、政策保有株式を上場維持上の流動性に反映する。
最初の三つは主として説明と対話を通じて働く。流通株式基準は、保有の説明内容とは別に、上場維持基準の計算へ直接反映される。この違いが、2022年の見直しを実務上強いものにした。
ただし、「東証が政策保有株式を解消するために流通株式の定義を変更した」と政策目的まで断定するのは慎重であるべきだ。公式の制度趣旨は市場流動性の確保であり、政策保有株式の縮減は、その制度が日本の株主構成に働いた重要な効果と捉えるのが適切である。
flowchart TD
A["上場株式数"] --> B["控除:10%以上保有株主<br/>(一定の例外あり)"]
B --> C["控除:役員・特別利害関係者"]
C --> D["控除:自己株式"]
D --> E["控除:国内銀行・保険・事業法人等<br/>(純投資等の例外あり)"]
E --> F["流通株式数"]
F --> G{"流通株式比率"}
G -->|"35%以上"| H["プライムの比率基準に適合"]
G -->|"25%以上35%未満"| I["スタンダード・グロースの<br/>比率基準には適合可能"]
G -->|"25%未満"| J["各市場の基準に応じた対応が必要"]
classDef pass fill:#e6efe1,stroke:#3d6b3a,color:#1f3a1d
classDef warn fill:#f9eecc,stroke:#a07e3a,color:#3a2d10
classDef fail fill:#f4d5d0,stroke:#8a3f3a,color:#3a1614
class H pass
class I warn
class J fail
IR担当者への示唆
- 東証の算式で自社の比率を再現する。 自社で使う「浮動株比率」や指数会社の浮動株比率と、東証の流通株式比率は同じとは限らない。
- 株主を属性だけでなく保有目的まで分類する。 銀行・保険・事業法人でも、純投資と売買実績を立証できれば流通株式に含まれる場合がある。必要書類を株主と早めに確認する。
- 自己株式取得と消却を分けて説明する。 取得だけでは比率が改善しない場合がある。取締役会資料と投資家向け開示では、消却の有無と実施時期まで示す。
- 事業年度末の判定を見越して管理する。 東証の審査は原則として各事業年度末の状況を対象に年1回行われる。社内では四半期ごとに試算し、基準日前に対応できるようにする。
- 上場維持と資本政策を一体で議論する。 政策保有株式の売却、主要株主の売出し、増資、自己株式の消却、市場区分変更は、IRだけでなく財務、法務、経営企画、取締役会が共同で判断すべき事項である。
出典・参考資料
- 日本取引所グループ「流通株式―上場維持基準の詳細」: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/continue/details/02.html
- 日本取引所グループ「上場維持基準(プライム市場)」: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/continue/outline/01.html
- 日本取引所グループ「上場維持基準(スタンダード市場)」: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/continue/outline/02.html
- 日本取引所グループ「上場維持基準(グロース市場)」: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/continue/outline/03.html
- 日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」: https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/01.html
- 日本取引所グループ「流通株式の定義―国内の普通銀行、保険会社及び事業法人等が所有する株式に関する例外的な取扱い」: https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge8628.html
- 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/index.html
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