要点
- 2021年改訂は2021年6月11日に施行された。プライム市場向けの原則は、新市場区分が始まった2022年4月4日から適用された。
- プライム市場には、独立社外取締役3分の1以上、指名・報酬委員会の独立性、英文開示、電子議決権行使プラットフォーム、TCFD等に基づく気候関連開示など、追加の要求が設けられた。
- スキル・マトリックス、管理職の多様性、サステナビリティ、人的資本・知的財産への投資は、プライム市場だけでなく、コードの全原則の適用を受ける上場会社に広く関わる改訂である。
市場区分再編と一体で行われた改訂
2021年改訂は、2022年4月の市場区分再編を抜きにしては理解できない。東京証券取引所は、従来の市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQを、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編した。なかでもプライム市場は、「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向け」と位置づけられた。
この位置づけに実質を持たせたのが、コーポレートガバナンス・コードの改訂である。市場区分を変えるだけでは、プライムとスタンダードの違いは時価総額や流動性の基準にとどまる。そこで東証は、プライム市場にだけ適用する原則をコードに設け、取締役会の独立性、英文開示、気候関連開示、株主総会の利用環境について、より高い水準を求めた。
一方、コードの適用範囲そのものも市場ごとに整理された。プライム市場とスタンダード市場の上場会社は、基本原則、原則、補充原則のすべてについてコンプライ・オア・エクスプレインを行う。グロース市場の上場会社が対象とするのは基本原則である。
改訂で変わった5つの分野
| 論点 | 2018年版 | 2021年版で変わったこと |
|---|---|---|
| 取締役会の独立性 | 独立社外取締役は少なくとも2名。3分の1以上が必要と考える会社には、その方針の開示を求めた。 | プライム市場では、独立社外取締役を3分の1以上選任すべきとした。必要と考える会社には過半数の選任を促した。指名・報酬委員会についても、プライム市場では構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とした。 |
| 取締役会のスキル構成 | 取締役会全体の知識・経験・能力、多様性、規模について考え方を示すことを求めていた。 | 補充原則4.11.1を改訂。 経営戦略に照らして取締役会に必要なスキルを特定し、各取締役のスキルとの対応関係を、スキル・マトリックスなど適切な形で開示するよう求めた。他社での経営経験を持つ人材を独立社外取締役に含めることも明記した。 |
| サステナビリティ・気候変動 | 原則2.3でサステナビリティ課題への対応に触れていたが、人的資本・知的財産や具体的な気候開示の枠組みまでは示していなかった。 | 補充原則3.1.3を新設。 サステナビリティの取組と、人的資本・知的財産への投資を経営戦略との関係が分かる形で開示するよう求めた。プライム市場には、TCFDまたは同等の枠組みに基づく気候関連開示の充実を求めた。補充原則4.2.2では、取締役会による基本方針の策定と監督を明記した。 |
| 中核人材の多様性 | 女性の活躍促進を含む多様性の確保を求めていたが、数値目標までは求めていなかった。 | 補充原則2.4.1を新設。 女性、外国人、中途採用者の管理職登用について、考え方と自主的かつ測定可能な目標、その進捗を公表するよう求めた。人材育成方針と社内環境整備方針も開示対象となった。 |
| 海外投資家・株主総会への対応 | 英文開示や電子議決権行使の環境整備を、株主構成に応じて進めるよう求めていた。 | プライム市場には、必要な情報を英語でも開示・提供すること、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用できるようにすることを明記した。 |
ここで区別しておきたいのは、プライム市場だけに適用される原則と、全原則の適用を受ける会社に共通する原則である。独立社外取締役3分の1以上、指名・報酬委員会の独立性に関する上乗せ、英文開示、電子議決権行使プラットフォーム、TCFD等に基づく気候関連開示は、プライム市場に固有の要求である。これに対し、スキル・マトリックス、管理職の多様性、サステナビリティ方針、人的資本・知的財産への投資の開示は、スタンダード市場を含め、コードの全原則の適用を受ける会社にも関わる。
独立社外取締役3分の1以上
2021年改訂を象徴するのが、原則4.8のプライム市場向け部分である。
「プライム市場上場会社は、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきである(機関設計に応じて、本原則が求める取締役会の機能を実現する観点から、独立社外取締役を過半数選任することが必要と考えるプライム市場上場会社は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである)。」 ― コーポレートガバナンス・コード(2021年版)原則4.8
2015年版と2018年版では、「少なくとも2名」が共通の基準だった。2021年改訂は、プライム市場について人数ではなく取締役会に占める比率を明確にした。取締役会の規模が大きくなっても、独立社外取締役の影響力が薄まらないようにするためである。
さらに補充原則4.10.1は、プライム市場の指名委員会・報酬委員会について、構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とした。独立社外取締役を取締役会に置くだけでなく、CEOの後継者選定や役員報酬といった重要な判断に、実際に関与させることを求めた改訂である。
サステナビリティを経営戦略の開示に組み込む
補充原則3.1.3は、サステナビリティを独立した社会貢献活動としてではなく、経営戦略と経営資源配分の問題として扱った。
「上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」 ― コーポレートガバナンス・コード(2021年版)補充原則3.1.3
この原則には三つの段階がある。第一に、全対象会社がサステナビリティへの取組を開示する。第二に、人的資本と知的財産への投資を、経営戦略との関係が分かる形で説明する。第三に、プライム市場は、気候変動によるリスクと収益機会を分析し、TCFD等の枠組みに沿って開示を充実させる。
その後、有価証券報告書にはサステナビリティ情報の記載欄が設けられ、SSBJ基準の整備も進んだ。2021年改訂は、そうした法定開示に先立って、取締役会とIR部門に実務を始めさせる役割を果たした。
多様性は「方針」から「測定可能な目標」へ
補充原則2.4.1は、女性、外国人、中途採用者の管理職登用について、理念だけでなく、自主的かつ測定可能な目標を示すよう求めた。コードが一律の数値を指定したわけではない。各社が自社の状況に応じて目標を決め、その考え方、進捗、人材育成方針、社内環境整備方針を公表する仕組みである。
改訂時点で、3月期決算の上場会社約2,220社における女性役員比率は約7.4%だった。政府が2023年に掲げた「2030年までに女性役員比率30%以上」という目標との間には大きな差がある。補充原則2.4.1が直接対象とするのは管理職層だが、そこで候補者を継続的に育てることが、将来の執行役員や取締役の人材基盤につながる。
コードは73項目から83項目へ
2021年改訂後のコードは、基本原則5、原則31、補充原則47の計83項目となった。2015年版の73項目から10項目増え、サステナビリティ、人的資本、知的財産、多様性、グループガバナンス、プライム市場向けの追加原則が組み込まれた。
項目数以上に重要なのは、開示どうしをつなげる必要が高まったことである。たとえば、スキル・マトリックスは経営戦略と結びつき、人的資本投資はサステナビリティ方針と資本配分につながる。英文開示は日本語版の要約ではなく、海外投資家との対話を支える情報基盤として扱う必要がある。個々の原則に別々に回答するだけでは、全体として説得力のある説明になりにくくなった。
2022年4月の適用開始
プライム市場向けの原則は、2022年4月4日の市場区分再編と同時に適用された。企業はその前から、取締役候補者の追加、指名・報酬委員会の構成変更、気候データの収集、英文開示体制の整備、議決権電子行使プラットフォームの導入を進めた。
東証が2022年7月14日時点のコーポレート・ガバナンス報告書を集計した資料は、改訂後の各原則への対応状況を市場別に示している。ここでの「説明」は、移行が遅れていることを意味するとは限らない。コードは、原則を実施しない場合でも、会社の事情と今後の方針を具体的に説明することを認めている。
コラム――コンプライ・オア・エクスプレインは「いずれ遵守すればよい」という制度ではない 原則を実施していない会社でも、その理由が自社の事情に即しており、代替策や今後の方針が明確であれば、コード上の説明は成立する。反対に、「今後検討する」とだけ記し、判断理由も時期も示さなければ、形式上は説明でも、投資家からは実質のない回答と受け取られる。問われるのは、遵守か説明かの選択そのものより、取締役会がどう判断したかである。
IR担当者が押さえるべき実務
- プライム市場向けの原則を独立して管理する。 独立社外取締役、指名・報酬委員会、英文開示、電子議決権行使、TCFD等の各項目について、責任部署、取締役会での確認時期、開示媒体を一覧化する。
- スキル・マトリックスを経営戦略から作る。 取締役の経歴に当てはまりそうな項目を並べるのではなく、中期経営計画の実行に必要な能力を先に定め、その能力を誰が担うかを示す。
- サステナビリティ開示を財務計画とつなげる。 気候、人的資本、知的財産への投資額や成果指標を、事業戦略、資本配分、リスク管理の説明と整合させる。
- 多様性は目標、実績、育成策を一組で示す。 「多様性を重視する」という方針だけでなく、現状値、目標値、期限、候補者を育てる仕組みまで開示する。
- 英文開示を翻訳作業だけにしない。 日本語資料と同じ時点で、同じ重要情報を海外投資家が利用できる体制を整える。2025年4月の英文開示義務化は、2021年改訂で始まった流れを制度として強めたものである。
出典・参考資料
- 金融庁――コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について(2021年4月公表、6月11日確定): https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210406.html
- 日本取引所グループ――「改訂コーポレートガバナンス・コード」の公表について(2021年6月11日): https://www.jpx.co.jp/news/1020/20210611-01.html
- 日本取引所グループ――改訂コーポレートガバナンス・コード(2021年6月、PDF): https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/b7gje6000005ob1l.pdf
- 金融庁――2021年6月11日確定版の解説(PDF): https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210611/04.pdf
- 日本取引所グループ――コーポレートガバナンス・コードへの上場会社の対応状況(2022年6月定時総会後): https://www.jpx.co.jp/news/1020/20220803-01.html
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