要点
- 東証のコーポレート・ガバナンス報告書は、第I部から第V部までの5部構成である。
- コードの各原則を実施しない理由と、各原則に基づく開示は、主に第I部に記載される。取締役会・委員会・監査・報酬などの体制は第II部に記載される。
- 15分で読むなら、まず第I部で資本構成とコード対応を確認し、次に第II部で取締役会の実態、第III部で株主総会とIR、第IV・V部で内部統制とその他の重要事項を確認する。
CG報告書の全体構成
flowchart TB
CG["コーポレート・ガバナンス報告書<br/>東証所定様式(重要事項の変更時に随時更新)"]
S1["<b>第I部――基本情報</b><br/>1. 基本的な考え方<br/>2. コードを実施しない理由<br/>3. 各原則に基づく開示<br/>4. 資本構成・企業属性・グループ経営"]
S2["<b>第II部――ガバナンス体制</b><br/>1. 取締役会・監査機関<br/>2. 社外役員・独立性<br/>3. 指名・報酬委員会<br/>4. 監査・報酬・責任限定契約"]
S3["<b>第III部――株主・ステークホルダー施策</b><br/>1. 株主総会・議決権行使<br/>2. IR活動<br/>3. ステークホルダー施策<br/>4. 英文開示・サステナビリティ"]
S4["<b>第IV部――内部統制等</b><br/>1. 内部統制システム<br/>2. リスク管理・通報制度<br/>3. 反社会的勢力排除"]
S5["<b>第V部――その他</b><br/>1. 買収防衛策<br/>2. ガバナンス体制図<br/>3. 適時開示体制図<br/>4. 今後の課題・施策"]
CG --> S1
CG --> S2
CG --> S3
CG --> S4
CG --> S5
報告書は単なる組織図ではない。会社がどの原則を実施し、何を実施していないのか、その判断をどのように説明しているかまで検索できる。取締役会の構成やIR活動に変更があれば随時更新されるため、年に一度だけ作る書類ではなく、会社の現在のガバナンスを示す継続開示と考えるべきである。
第I部――最初に読むべき基本情報とコード対応
第I部の正式名称は、「コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の基本情報」である。名称は長いが、投資家が最初に見る情報の多くがここに集まっている。
主な内容は次のとおりである。
- コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方――会社がガバナンスを何のために整備し、株主や他のステークホルダーをどう位置づけるかを説明する。
- コードの各原則を実施しない理由――プライム・スタンダード市場では基本原則、原則、補充原則、グロース市場では基本原則について、実施していないものがあれば理由を記載する。
- コードの各原則に基づく開示――政策保有株式、取締役会のスキル構成、サステナビリティ、資本コスト、株主との対話など、コードが開示を求める事項を記載するか、他の資料への参照先を示す。
- 資本構成――外国人株式保有比率、大株主、支配株主、親会社の有無などを記載する。
- 企業属性とグループ経営――市場区分、決算期、業種、従業員数、連結子会社数、親子上場の有無、少数株主保護の考え方などを示す。
この部分では、まず支配株主・親会社の有無と外国人株式保有比率を見る。支配株主がいる会社では、独立性と少数株主保護が読み解きの中心になる。外国人保有比率が高い会社では、英文開示、株主総会の利用環境、独立社外取締役、資本配分に関する説明への期待も高くなりやすい。
次に、コードを実施しない理由と各原則に基づく開示を確認する。どの原則を「説明」しているかだけでなく、同業他社と比べて説明が具体的か、日付や判断主体が示されているか、他の開示資料と整合しているかを見る。
コラム――外国人株式保有比率は、対話の前提を変える 外国人保有比率が上がれば、海外の運用会社や議決権行使助言会社が求める情報の比重も高まる。英文資料の有無だけでなく、日本特有の機関設計、政策保有株式、親子上場、監査役の権限などを、海外投資家が理解できる言葉で説明する必要がある。IR担当者は、最新の比率と前年からの変化を把握しておきたい。
第II部――取締役会と監督体制の実像
第II部は、「経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」を扱う。ここを読むと、会社が採用する機関設計と、それが実際にどう構成されているかが分かる。
確認すべき項目は次のとおりである。
- 機関設計――監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれか。
- 取締役会の構成――取締役の人数、任期、議長、社外取締役・独立役員の人数と属性。
- 社外役員の独立性――会社との取引関係、主要株主・取引先との関係、独立役員への指定状況。
- 指名・報酬委員会――任意委員会の有無、構成、委員長、独立社外取締役の比率、役割と権限。
- 監査体制――監査役・監査等委員・監査委員、内部監査部門、会計監査人の連携。
- 役員報酬――報酬方針、固定・業績連動・株式報酬の考え方、決定手続。
- 現在の体制を選んだ理由――なぜその機関設計が自社に適しているのか、社外取締役がどのような機能を果たすのか。
三つの機関設計は、名称だけでなく権限の配置が異なる。監査役会設置会社では監査役が取締役とは別の法定機関を構成する。監査等委員会設置会社では監査等委員である取締役が取締役会の議決に加わる。指名委員会等設置会社では、指名・監査・報酬の三委員会が法定委員会となる。同じ独立社外取締役比率でも、どの機関に所属し、どの決定に参加するかによって実効性は変わる。
説得力のある「遵守」と「説明」
コードの趣旨に沿った開示は、単に「実施している」と記すだけでは不十分である。実施内容、判断主体、見直し時期、経営戦略とのつながりが読者に分かることが重要になる。
補充原則4.11.1のスキル・マトリックスを例に比べてみよう。
弱い遵守説明
「当社は補充原則4.11.1を実施しています。取締役会は、多様な経験と能力を有する取締役で構成されています。」
具体性のある遵守説明
「当社は、2024年5月の取締役会において、2025~2027年度中期経営計画の重点施策を実行するために必要な能力を、企業経営、財務・会計、M&A、技術、海外事業、法務・ガバナンス、サステナビリティ、人的資本の8分野に整理しました。各取締役との対応関係は本報告書14ページのスキル・マトリックスに示しています。指名委員会は、毎年の候補者選定に先立ち、必要な能力と現任取締役の構成を見直します。」
後者には、経営戦略、取締役会での決定時期、能力の分類、見直し主体、参照ページが入っている。読者は、マトリックスが経歴の一覧ではなく、取締役候補者の選定に使われていることを確認できる。
次に、原則4.8の独立社外取締役比率を満たしていない場合の説明を比べる。
弱い説明
「当社は現在、独立社外取締役を3分の1以上選任していません。今後検討してまいります。」
具体性のある説明
「当社の取締役10名のうち、独立社外取締役は3名で、比率は30%です。指名委員会は、2026年6月の定時株主総会で独立社外取締役を1名追加する方針で候補者を選定しています。選任された場合の比率は36%となります。進捗は四半期ごとに取締役会へ報告します。」
実施していない理由を説明する場合でも、現状、判断理由、代替策、責任主体、時期を示せば、投資家は取締役会の考え方を評価できる。「遵守」という結論だけの記述より、具体的な「説明」の方が情報価値を持つこともある。
第III部――株主総会、IR、ステークホルダー施策
第III部は、「株主その他の利害関係者に関する施策の実施状況」であり、IR担当者に最も直接関係する部分である。
- 株主総会の活性化と議決権行使の円滑化――招集通知の早期発送、集中日を避けた開催、電子投票、機関投資家向け議決権電子行使プラットフォーム、招集通知の英訳、バーチャル総会など。
- IR活動――ディスクロージャーポリシー、個人投資家・アナリスト・海外投資家向け説明会、代表者自身による説明の有無、IR資料の掲載、担当部署・担当役員。
- ステークホルダー施策――社内規程におけるステークホルダー尊重、環境・CSR・サステナビリティ報告、多様性、内部通報制度など。
ここでは、会社が「投資家との対話を重視する」と書いているかより、誰が、どの投資家層に、どの頻度で説明しているかを見る。日本語と英語の情報が同時に公表されているか、CEOやCFOが対話に参加しているか、株主総会前に十分な検討時間が確保されているかも確認したい。
第IV部――内部統制と反社会的勢力への対応
第IV部には、会社法上の内部統制システムに関する基本的な考え方と整備状況、リスク管理、情報管理、内部通報、グループ会社管理、反社会的勢力排除の方針・体制などが記載される。
ここで扱う内部統制は、金融商品取引法上の財務報告に係る内部統制、いわゆるJ-SOXと完全に同じものではない。CG報告書では、取締役・使用人の職務が法令・定款に適合するための体制、損失リスクを管理する体制、職務情報の保存・管理、企業集団の業務の適正など、会社法上のより広い枠組みを中心に確認する。
通常は最後に概要を読めば足りるが、不祥事、内部統制の重要な不備、子会社管理上の問題があった会社では、この部分を先に読む価値がある。再発防止策が組織図の追加だけにとどまっていないか、通報経路や取締役会への報告がどう変わったかを確認する。
第V部――買収防衛策と体制図
第V部の「その他」には、買収防衛策の導入状況、今後のガバナンス課題、ガバナンス体制図、適時開示体制図などが含まれる。
買収防衛策を導入している会社では、その目的、仕組み、合理性に関する経営陣の評価を見る。体制図では、株主総会、取締役会、監査機関、任意委員会、執行会議、内部監査、会計監査人がどのようにつながっているかを一枚で把握できる。適時開示体制図は、重要情報が事業部門からどの経路で集約され、誰が開示判断を行い、どこで承認されるかを示す。
コラム――どこで入手するか 各社の最新報告書は、東証のコーポレート・ガバナンス情報サービスで、会社名や証券コードから検索できる。会社のIRサイトにもPDFが掲載されることが多いが、比較調査では東証の検索サービスを使うと、同じ様式で複数社を確認しやすい。
15分で読む手順
| 経過時間 | 確認する内容 |
|---|---|
| 0~4分 | 第I部――支配株主・親会社、外国人保有比率、市場区分、コードを実施しない理由、政策保有株式・資本コスト・スキル構成などの原則別開示。 |
| 4~9分 | 第II部――機関設計、取締役会と独立社外取締役、指名・報酬委員会、監査体制、役員報酬、現在の体制を選んだ理由。 |
| 9~12分 | 第III部――株主総会、電子議決権行使、英文招集通知、説明会、CEO・CFOの関与、IR担当体制。 |
| 12~14分 | 第IV部――内部統制、リスク管理、内部通報、子会社管理。最近の不祥事がある場合は時間を増やす。 |
| 14~15分 | 第V部――買収防衛策、ガバナンス体制図、適時開示体制図、今後の課題。 |
短時間で比較する場合は、項目をすべて同じ深さで読む必要はない。まず株主構成とコード対応で論点を絞り、その論点に関係する取締役会・委員会・IR体制を追う。支配株主がいれば少数株主保護、政策保有株式が多ければ原則1.4、PBR1倍割れなら原則5.2、海外保有比率が高ければ英文開示と株主総会環境、というように読み進める。
IR担当者が押さえるべき実務
- CG報告書を随時開示として管理する。 取締役会構成、委員会、支配株主、方針、コード対応に重要な変更があれば、年次更新を待たずに修正する。
- 第I部の原則別開示を、投資家向けの文章として書く。 定型句ではなく、判断主体、日付、数値、対象資料、見直し時期を入れる。別資料を参照させる場合は、読者が該当箇所へ迷わず到達できるようにする。
- 第I部と第II部を整合させる。 「指名委員会が後継者計画を監督する」と書くなら、第II部の委員会構成、開催回数、役割もそれを裏づけていなければならない。
- IR資料、有価証券報告書、統合報告書との不一致をなくす。 外国人保有比率、独立社外取締役比率、政策保有株式、報酬方針、サステナビリティ目標など、同じ事項を複数媒体で開示する場合は基準日と定義をそろえる。
- 東証の記載要領と好事例集を起点に改善する。 自社独自の表現を追求する前に、各欄の正式な目的と記載上の注意を確認し、同業他社の好事例と比較する。
出典・参考資料
- 日本取引所グループ――コーポレート・ガバナンスに関する報告書(様式、記載要領、サンプル): https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/01.html
- 日本取引所グループ――コーポレート・ガバナンス報告書の好事例集(PDF): https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/b5b4pj0000036oc5.pdf
- 日本取引所グループ――コーポレート・ガバナンス情報サービス: https://www2.tse.or.jp/tseHpFront/CGK010010Action.do
- 日本取引所グループ――東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/02.html
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