要点

  • 政策保有株式の規律は、コーポレートガバナンス・コード、有価証券報告書、東証の流通株式ルールという三つの層から成る。
  • 2026年改訂版コードの原則1-4は、縮減を含む保有方針、銘柄ごとの検証、議決権行使基準に加え、政策保有株主による売却を妨げないこと、経済合理性のない取引を続けないことを求めている。
  • 2025年3月期以降の有価証券報告書では、政策保有目的から純投資目的へ変更した株式についても、変更年度、理由、変更後の保有・売却方針を追跡して開示する。

現在の制度は三層でできている

政策保有株式の開示を読むときは、一つの文書だけを見てはいけない。会社の方針と取締役会の検証はコーポレートガバナンス・コード、銘柄別の保有状況は有価証券報告書、上場維持への影響は東証の流通株式ルールに現れる。

制度 主な文書 何を問うか
原則主義のガバナンス規律 コーポレート・ガバナンス報告書 なぜ保有するのか。縮減方針はあるか。取締役会はどう検証し、どう議決権を行使するか
法定開示 有価証券報告書 どの銘柄を何株、いくらで保有しているか。保有目的、定量的効果、増減理由は何か
上場維持基準 流通株式比率・流通株式時価総額 銀行、保険会社、事業法人などの保有が流通株式から除かれた結果、必要な流動性を確保できるか

三つの制度は、同じ方向を向いている。政策保有を直ちに禁止するのではなく、保有の合理性を毎年説明させ、経済合理性のない関係を縮減し、残った保有についても市場流動性の面からコストを負わせる仕組みである。

2026年改訂版コードの原則1-4

2026年7月に確定したコーポレートガバナンス・コードは、政策保有株式について、実務上の確認点を四つに整理した。

  1. 縮減を含む保有方針と、銘柄ごとの検証。 取締役会は毎年、個別銘柄について、保有目的、便益、リスクが資本コストに見合うかを検証し、その内容を開示する。
  2. 議決権行使基準。 取引関係があるから自動的に会社提案へ賛成するのではなく、企業価値と株主共同の利益に照らした具体的な基準を持つ。
  3. 売却を妨げない。 自社株を政策保有している取引先が売却を申し入れた際、取引縮減を示唆するなどして売却を妨げてはならない。
  4. 不合理な取引を続けない。 政策保有株主との間で、経済合理性を十分に検証しないまま、会社や株主共同の利益を損なう取引を継続してはならない。

この構成により、政策保有の論点は「保有してよいか」だけではなくなった。保有させている側の会社が売却を妨げていないか、株式保有と商取引が不適切に結び付いていないかまでが、ガバナンスの問題となる。

有価証券報告書では銘柄ごとに説明する

法定開示では、政策保有株式を一定数以上持つ会社に対し、銘柄別の株式数、貸借対照表計上額、保有目的、定量的な保有効果、当期の増減理由などを記載することが求められる。制度改正により、個別開示の対象銘柄数は拡大してきた。

実務上、最も弱い記載は「取引関係の維持・強化のため」という一文で終わるものだ。取引関係があることは事実の説明であって、資本を拘束する理由の説明ではない。少なくとも、次の項目を一つの流れで示す必要がある。

確認項目 開示で示す内容
保有目的 具体的にどの事業、取引、共同開発、供給関係に結び付くのか
経済的便益 便益をどう測定したか。売上や調達だけでなく、資本コストとの比較をどう行ったか
リスク 株価変動、集中、取引先依存、レピュテーション、流動性への影響
取締役会の判断 継続、縮減、売却のどれを選び、いつ再検討するか
議決権行使 会社提案に自動賛成せず、どの基準で判断するか

「便益を数値化することが困難」と書く場合でも、そこで説明を終えてはいけない。どのような資料を取締役会に示し、どの代替指標で検証し、何をもって保有継続を判断したのかを記す必要がある。

「純投資目的への変更」で終わらせない

政策保有株式を純投資目的へ区分変更し、そのまま長期間保有し続ける会社が増えたことで、新たな問題が生じた。名称だけを「純投資」に変えても、実質が取引関係の維持であれば、政策保有から外れたとは言えない。

このため、2025年1月の内閣府令改正により、当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的へ変更し、期末時点でも保有している株式について、次の事項を開示することになった。

  • 銘柄
  • 株式数
  • 貸借対照表計上額
  • 保有目的を変更した年度
  • 変更理由
  • 変更後の保有または売却に関する方針

改正後の規定は、2025年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等から適用されている。純投資目的に移した後も、いつまで保有するのか、どの価格・条件で売却を検討するのか、なぜ現在も保有しているのかが問われる。

2026年度レビューが示した弱点

金融庁の有価証券報告書レビューでは、政策保有株式について、次のような記載が重点的に確認されている。

  • 銘柄ごとの保有目的が抽象的で、会社固有の関係が分からない。
  • 「安定株主の確保」といった実質的な目的を記載していない。
  • 取締役会での検証内容と、実際の保有継続・増加との関係が説明されていない。
  • 純投資目的へ変更した理由や、変更後の売却方針が明確でない。

ここから分かるのは、制度が書式の充足から、記載内容と実際の行動の整合性を見る段階へ移ったということだ。縮減方針を掲げながら保有額が増えているなら、株価上昇によるものか、追加取得によるものかを分けて説明しなければならない。売却方針を掲げながら何年も保有を続けるなら、売却条件と進捗を示す必要がある。

取締役会で使える銘柄別検証表

実務では、政策保有株式を一括して審議するのではなく、少なくとも重要銘柄について、次のような表を取締役会に提出するとよい。

項目 内容
銘柄・保有額 株式数、時価、簿価、自己資本に占める割合
保有の経緯 取得時期、当初の目的、相手先との関係
現在の便益 具体的な事業上の便益と、その測定方法
資本コストとの比較 受取配当、含み損益、取引便益を含む評価と前提
リスク 株価下落、集中、売却可能性、取引関係への影響
議決権行使 前年度の重要議案と判断理由
結論 継続、段階縮減、売却のいずれか
実行時期 次回見直し日、売却の目安、相手方との協議状況

この表の目的は、精緻な一点の数字を作ることではない。取締役会が「関係が長いから持つ」という判断から離れ、同じ基準で各銘柄を比較できるようにすることである。

IR担当者が押さえるべき含意

  1. コーポレート・ガバナンス報告書と有価証券報告書を同じデータから作る。 方針と実績が別部署で作られると、縮減方針と銘柄別記載が食い違う。
  2. 保有先ではなく、保有させている側としての行動も点検する。 取引先が自社株の売却を希望したとき、取引条件や発注を材料に圧力をかけてはならない。
  3. 純投資目的への変更後も追跡する。 区分変更は出口ではない。売却方針、保有期間、実際の売却実績まで開示できるようにする。
  4. 流通株式比率と一体で管理する。 政策保有株式の縮減は、保有会社側の資本効率だけでなく、発行会社側の流動性と上場維持にも影響する。
  5. 売却実績だけでなく、残る銘柄の理由を説明する。 縮減が進むほど、最後に残る銘柄には高い説明責任が生じる。

出典・参考資料


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