要点
- SSBJ基準は、「サステナビリティ開示基準の適用」「一般開示基準」「気候関連開示基準」の三本で構成される。2025年3月5日に公表され、2026年3月13日に改正された。
- プライム市場上場会社のうち、5事業年度平均時価総額が3兆円以上の会社は2027年3月期から、1兆円以上の会社は2028年3月期から、SSBJ基準に従う法定開示が必要になる。
- 適用初年度と翌年度には、一定の情報を後から訂正報告書で追加する二段階開示が認められる。Scope 3排出量には、推論過程と社内手続を具体的に開示した場合のセーフハーバーも設けられた。
SSBJ基準は何でできているか
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した基準は、次の三本で構成される。
| 基準 | 主な役割 |
|---|---|
| サステナビリティ開示基準の適用 | 報告企業、適用範囲、重要性、比較情報、表示、経過措置など、基準全体に共通する事項を定める |
| 一般開示基準 | サステナビリティ関連のリスクと機会について、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標を開示する枠組みを定める |
| 気候関連開示基準 | 気候関連のリスクと機会、シナリオ分析、温室効果ガス排出量、移行計画、目標などを定める |
三本はいずれも2025年3月5日に公表され、2026年3月13日に改正された。さらに2026年6月には、温対法のSHK制度で測定・報告する温室効果ガス排出量を気候関連開示に用いる場合の実務対応基準が公表された。
SSBJ基準は、ISSBのIFRS S1・S2との整合を重視しているが、日本の法制度や実務に合わせた差異もある。海外でISSB準拠の報告を行っている会社でも、日本の有価証券報告書にそのまま転記すれば足りるとは限らない。SSBJ基準の要求事項と、金融庁の開示府令による追加記載を分けて確認する必要がある。
誰に、いつから適用されるか
2026年2月に確定した内閣府令は、東証プライム市場上場会社のうち、平均時価総額が1兆円以上の会社にSSBJ基準を義務付ける。平均時価総額は、対象年度の前年度末と、その前4事業年度末の時価総額の平均で判定する。
| 対象会社 | 適用開始 |
|---|---|
| 2026年3月期末を基準とした平均時価総額が3兆円以上 | 2027年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等 |
| 平均時価総額が1兆円以上 | 2028年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等 |
| 平均時価総額が1兆円未満 | 現行の内閣府令ではSSBJ基準による義務適用の対象外 |
上場後5事業年度が経過していない会社は、経過した事業年度の各期末時価総額の平均で判定する。
[要確認: 平均時価総額5,000億円以上1兆円未満のプライム市場上場会社については、金融審議会の中間整理で2029年3月期からの適用が基本案として示されたが、2026年8月時点で当該層の適用開始は内閣府令上まだ確定していない。]
有価証券報告書には何を書くか
対象会社は、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」に、SSBJ基準に従った情報を記載する。加えて、開示府令は次の事項も求める。
- SSBJ基準に準拠している旨
- 二段階開示や基準上の経過措置を利用している場合、その適用状況
- 将来情報の見積りや前提に用いた推論過程
- Scope 3温室効果ガス排出量の算定方法、前提、推論過程
- 将来情報やScope 3情報を作成・確認する社内の開示手続
- 半期報告書で確定値を示す場合、前年度の見積値との差異
ここで重要なのは、サステナビリティ部門だけで作る任意報告書ではなくなることだ。有価証券報告書に入る以上、財務報告と同じ開示統制、取締役会の監督、監査役等の確認、経営者の責任が伴う。
二段階開示
適用初年度とその翌年度については、SSBJ基準に従って記載すべき情報の一部を有価証券報告書の提出時点で記載せず、翌期の半期報告書の提出期限までに訂正報告書を提出して補うことができる。
この二段階開示は、情報収集に時間がかかるScope 3や海外子会社データに対応するための経過的な仕組みである。提出期限を先延ばしにする制度ではない。初回の有価証券報告書には、何を二段階開示とするのか、どのような理由で後日追加するのかを明確にし、訂正報告書までの工程を管理する必要がある。
実務では、次の三分類が有効である。
- 有価証券報告書提出時に確定できる情報――ガバナンス体制、戦略、主要リスク、目標、Scope 1・2など。
- 合理的な見積りで開示する情報――将来見通し、シナリオ分析、データ未確定の排出量。
- 二段階開示で後日補う情報――海外子会社やバリューチェーンからの回収に時間を要し、提出時点で合理的な値を作れないもの。
Scope 3のセーフハーバー
Scope 3排出量は、取引先や顧客のデータ、業界平均、推計係数などに依存するため、後から数値が変わりやすい。金融庁は、差異が生じる要因、推論過程、社内の開示手続を一般に合理的と考えられる範囲で具体的に記載していれば、結果として数値に差異が生じても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないという考え方を明示した。
セーフハーバーは、粗い数値を無条件に許す制度ではない。むしろ、どのデータを使い、何を推計し、誰が確認したかを説明することが前提である。IR担当者にとっては、算定値そのものだけでなく、算定プロセスを開示できる状態にすることが重要になる。
保証制度はどこまで決まっているか
サステナビリティ情報の保証については、金融審議会で、限定的保証を段階的に導入する方向が示されている。平均時価総額3兆円以上の会社については、SSBJ基準の適用開始から1年後となる2028年3月期からの保証開始を軸に検討が進んでいる。初期には、Scope 1・2排出量とガバナンス・リスク管理など、対象を限定する案が示されている。
[要確認: 2026年8月時点では、保証業務の担い手、登録・監督、保証範囲の拡大時期など、制度の全体は法令として最終確定していない。最新の金融審議会資料と法令改正を確認する必要がある。]
したがって、会社は保証制度の確定を待つべきではない。第三者が検証できる証憑、データの責任者、変更履歴、連結範囲、見積りの承認手続を、開示初年度から整えておく必要がある。
準備を五つの作業に分ける
| 作業 | 具体的な確認 |
|---|---|
| 適用判定 | 5事業年度平均時価総額を毎期計算し、適用年度を確定する |
| 差異分析 | 現行の統合報告書、TCFD開示、CDP回答とSSBJ要求事項を照合する |
| データ整備 | Scope 1・2・3、財務影響、移行計画、目標のデータ所有者を決める |
| 開示統制 | 算定、レビュー、経営承認、取締役会監督、訂正の手順を文書化する |
| 保証対応 | 証憑、システム権限、監査証跡、外部保証人との事前対話を整える |
とくに難しいのは、サステナビリティ情報と財務諸表の接続である。気候リスクを重要と説明しながら、減損テスト、耐用年数、引当金、設備投資計画に反映していなければ、投資家は整合性を問う。サステナビリティ開示を独立した報告作業にせず、事業計画と会計判断に結び付ける必要がある。
IR担当者が押さえるべき含意
- まず適用年度を確定する。 単年度の時価総額ではなく、5事業年度平均で判定する。経理、法務、IRで共通の計算表を持つ。
- SSBJ基準と開示府令を別々に確認する。 基準への準拠だけでは、有価証券報告書の追加記載を満たさない場合がある。
- 二段階開示は、計画的な経過措置として使う。 毎年同じ情報を後回しにする運用にしない。初年度からデータ回収の恒久化計画を示す。
- Scope 3は数字よりプロセスを固める。 データ源、推計方法、判断、承認、変更履歴を説明できれば、数値の不確実性を適切に伝えられる。
- 保証を見据えて証跡を残す。 任意開示の時代に使っていた手作業の表計算だけでは足りない。財務報告に近い内部統制をつくる。
出典・参考資料
- SSBJ「サステナビリティ開示基準」: https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards.html
- SSBJ「サステナビリティ開示基準の公表」(2025年3月5日): https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html
- SSBJ「適用にあたっての関連情報」: https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/reference.html
- SSBJ「ハンドブック」: https://www.ssb-j.jp/jp/related_information/handbooks/fundamental.html
- 金融庁「開示府令等の改正及びパブリックコメントの結果」(2026年2月20日): https://www.fsa.go.jp/news/r7/shouken/20260220/20260220.html
- 金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する情報」: https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability-kaiji.html
- 金融庁「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」: https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/
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