要点

  • 制度動向を追うときは、改訂が完了した会議、実施状況を点検する会議、現在も制度設計を行う会議を分ける。
  • 2026年7月、コーポレートガバナンス・コード改訂は確定し、東証で適用が始まった。したがって、改訂有識者会議を「今後のルールを作る会議」として追う段階は終わっている。
  • 今後の重要論点は、サステナビリティ保証、会社法制、法定開示、東証の市場区分・資本コスト施策、買収実務の定着である。

まず、三つの状態に分ける

政策会議の一覧は、数を増やすほど分かりにくくなる。実務では、各会議を次の三つに分類するとよい。

  1. 制度改正を終えた会議。 最終文書や法令が出ており、会社側は実装段階にある。
  2. 実施状況を点検する会議。 新しい条文を作るより、既存制度が実質的に機能しているかを確認する。
  3. 制度設計を続ける会議。 中間整理、公開草案、法案など、今後の義務を生む可能性がある。

2026年8月時点の主要な流れは、次のとおりである。

政策の流れ 所管 現在の状態 直近の成果 次に確認すること
コーポレートガバナンス・コード改訂 金融庁・東証 完了・実装 2026年7月21日に改訂版確定、東証で適用開始 自社CG報告書、取締役会運営、政策保有、人材戦略への反映
両コードのフォローアップ 金融庁・東証 実施状況の点検 アクション・プログラム2025 改訂コードとスチュワードシップ実務の定着状況
市場区分・資本コスト・グロース市場 東証 継続的な点検・運用 資本コスト要請の更新、グロース市場の新基準、TOPIX改革 開示の質、実行、上場維持、指数移行
法定開示制度 金融庁・金融審議会 制度設計中 有価証券報告書、人的資本、サステナビリティ開示の改正 総会前開示、英文開示、記述情報の追加見直し
サステナビリティ開示・保証 金融庁・金融審議会 開示は一部確定、保証は検討継続 SSBJ基準の段階適用を法制化 保証対象、開始時期、保証業務の担い手と監督
買収実務 経済産業省 指針確定・実務整理 2023年指針、2026年「ポイント・Q&A」 市場実務、裁判例、TOB制度との接続
会社法制 法務省・法制審議会 制度設計中 会社法制部会で中間試案を検討 実質株主、株主総会、株式制度、企業統治の法改正
SSBJ基準開発 SSBJ 基準保守・実務支援 2025年基準、2026年改正、実務対応基準 実務解説、ISSB改訂への対応、追加テーマ基準

すでに実装段階

コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議は、翁百合氏を座長として2025年10月から議論を行い、2026年4月に改訂案を公表した。パブリックコメントを経て、2026年7月21日に改訂版が確定した。東証も同日、改訂コードの適用を開始した。

したがって、IR担当者が今読むべきなのは、会議の将来予測ではなく、次の文書である。

  • 2026年改訂版コード本文
  • 改訂前からの変更点
  • 改訂の趣旨と概要
  • パブリックコメントへの回答
  • 取締役会の機能強化に関する事例集2026

改訂の内容をCG報告書に反映するだけでなく、取締役会資料、指名・報酬委員会、政策保有株式の検証、人材戦略、成長投資の監督まで見直す必要がある。

2. フォローアップ会議――制度の「実質」を見る

金融庁と東証の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は、2015年以降、両コードの実施状況を確認し、意見書やアクション・プログラムを公表してきた。

直近の正式なアクション・プログラムは2025年版である。2026年改訂コードが確定した後は、条文をさらに増やすことより、取締役会が成長投資や経営資源配分を実質的に監督しているか、投資家との対話が意思決定に反映されているかが焦点になる。

会議資料を読む際は、会社名の挙がる好事例だけでなく、課題として整理された項目を見る。そこに、翌年の東証資料、金融庁レビュー、次回改訂の種が現れる。

フォローアップ――上場後の行動を変える

東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は、市場再編後の上場維持基準、資本コストや株価を意識した経営、英文開示、グロース市場、指数改革などを扱う。

この会議の特徴は、法律を作らずに上場会社の行動を変える点にある。要請、公表リスト、事例集、上場維持基準、段階的移行を組み合わせる。IR担当者は、ニュースリリースだけでなく、会議資料と東証の「今後の対応」を合わせて読むべきである。

――有価証券報告書の次を作る

情報開示ワーキング・グループは、法定開示の制度設計を担う。2026年にも会合が続き、有価証券報告書、半期報告書、株主総会前開示、人的資本、政策保有株式、英文情報などの課題を扱っている。

この会議の資料が重要なのは、最終的に内閣府令や開示様式へ落ちる可能性があるからだ。コードの議論が原則を示すのに対し、情報開示WGは、誰が、いつ、どの様式で、何を記載するかを具体化する。

――次の焦点は保証

SSBJ基準の法定適用については、2026年2月の内閣府令改正で、平均時価総額3兆円以上、1兆円以上のプライム会社の適用時期が確定した。一方、保証制度は検討が続いている。

今後確認すべき論点は、限定的保証の対象、開始年度、Scope 3の扱い、保証業務の担い手、品質管理、監督制度である。対象会社は制度確定を待たず、証憑と内部統制を整える必要がある。

6. 経済産業省の公正な買収の在り方に関する研究会――指針から実務へ

研究会は2026年に再開され、2023年「企業買収における行動指針」のポイントとQ&Aを2026年7月に公表した。現時点では、2023年指針を別の指針に置き換えたのではなく、実務上の疑問を整理した段階である。

IR・法務担当者は、今後の会議予定を予想するより、2023年指針と2026年Q&Aを自社の買収対応手順へ落とし込むべきである。未承諾提案の受付、特別委員会、情報開示、株主意思の確認を平時に設計する。

――会社法の土台を見直す

法務省の会社法制部会は2025年4月に第1回会合を開き、その後も審議を続けている。株主総会、株式、実質株主、企業統治など、会社法の基礎に関わる論点が対象となる。

会社法改正は、コードや東証要請より時間がかかる一方、成立すれば全株式会社に法的効果を持つ。中間試案、パブリックコメント、要綱案、法案という順に進むため、IR担当者は法務部門と役割を分け、株主との対話や総会運営に影響する論点を早めに把握する。

8. SSBJ――基準を公表した後も追う

SSBJは2025年に三本の基準を公表し、2026年に改正と実務対応基準を出した。基準設定主体の仕事は、公表で終わらない。ISSB基準の変更、国内法令との接続、実務上の質問、業種別の課題に応じて、参考情報、ハンドブック、実務対応基準を追加する。

対象会社は、金融庁の法令ページだけでなく、SSBJの基準ページ、議事概要、公開草案も追う必要がある。

制度ができるまでの読み方

日本のガバナンス制度は、概ね次の順で具体化する。

  1. 政府方針やアクション・プログラムで課題が示される。
  2. 有識者会議、研究会、ワーキング・グループで論点が整理される。
  3. 中間整理、報告書、指針案、公開草案が公表される。
  4. パブリックコメントを経て、コード、指針、内閣府令、東証規則が確定する。
  5. FAQ、記載例、好事例、レビュー結果によって実務上の期待が具体化する。

最も早いシグナルは会議資料だが、会社が対応を確定すべきなのは最終文書である。検討段階の案を「決まったルール」として社内に伝えない。一方で、最終決定を待ってからデータや人材を整え始めると間に合わない。制度の確度と準備の可逆性を分けて管理することが重要だ。

IR部門の月次確認表

頻度 確認するページ 目的
月次 JPX「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」 資本コスト、上場維持、英文開示、グロース市場の更新
会合時 金融庁フォローアップ会議 コード運用、対話、政策保有、取締役会の課題
会合時 金融審議会 情報開示WG 有価証券報告書・半期報告書の制度改正
会合時 サステナビリティ開示・保証WG SSBJ適用と保証制度
四半期 経済産業省の企業統治・買収関連研究会 買収、グループガバナンス、取締役会実務
四半期 法制審議会会社法制部会 株主総会、実質株主、会社法改正
月次 SSBJ基準・公開草案ページ 基準改正、実務対応、解説資料

IR担当者が押さえるべき含意

  1. 「検討中」「確定」「施行済み」を資料ごとに明記する。 社内説明で将来案と現行義務を混同しない。
  2. 2026年改訂コードは、予測対象ではなく実装対象である。 最新本文に照らし、CG報告書と取締役会実務を更新する。
  3. 会議名より、成果物の法的性質を見る。 意見書、指針、コード、内閣府令、東証規則では効力が違う。
  4. 会議資料を先行指標に、最終文書を実行基準にする。 早く準備しつつ、未確定事項に過剰投資しない。
  5. IR、法務、経理、サステナビリティ、人事で一つの制度台帳を持つ。 同じ改正が複数部署の開示と取締役会運営にまたがるためである。

出典・参考資料


本カリキュラムの次: IRツールボックス――JPX・金融庁・経済産業省・SSBJの一次資料を探す

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