要点

  • 2025年6月の第三次改訂は、実質株主の透明性と協働対話を主要論点とした。既存の署名機関には、2025年末までに改訂版への対応方針を更新することが求められた。
  • 複数投資家が同じ会社と対話することが、直ちに金融商品取引法上の共同保有者になることを意味するわけではない。合意の継続性、共同して重要提案行為等を行う目的など、具体的な関係で判断される。
  • 発行会社は、協働対話を一律に拒むのではなく、参加者、目的、議題、権限、情報管理を確認したうえで、通常の株主対話として受け止める体制を整える必要がある。

第三次改訂で何が変わったか

日本版スチュワードシップ・コードは2014年の策定後、2017年、2020年、2025年に改訂された。第三次改訂では、対話の実効性を高めるため、二つの論点が前面に出た。

1. 実質株主の透明性

株主名簿に記載される名義株主と、投資判断・議決権行使を行う実質株主が異なる場合、発行会社は誰と対話すべきか分からないことがある。改訂版は、投資先企業から保有状況の説明を求められた場合にどう対応するかについて、機関投資家が方針を公表することを促した。

これは、会社がすべての投資家の詳細を無条件で把握できる制度ではない。カストディ、信託、運用委託などの構造を踏まえ、建設的な対話に必要な範囲で、誰が投資判断を担い、誰が議決権行使方針を決めるのかを明らかにする方向である。

2. 協働対話

一社の投資家だけでは企業に十分な問題意識を伝えにくい場合、複数の機関投資家が共通の論点について共同で対話することがある。第三次改訂は、協働対話を、状況に応じて有効なスチュワードシップ活動になり得るものとして明確に位置付けた。

協働対話は、アクティビストだけの手法ではない。長期運用会社、年金、ESG投資家などが、気候変動、取締役会の実効性、政策保有株式、資本配分といった共通課題について意見を伝える場合にも使われる。

大量保有報告制度との関係

機関投資家が協働対話をためらってきた理由の一つに、複数投資家が「共同保有者」とみなされ、大量保有報告制度上の合算や報告義務が生じるのではないかという懸念があった。

2024年の金融商品取引法改正と、その後の政令・内閣府令・Q&Aの整理により、協働対話と共同保有者の関係が明確化された。制度は2026年5月1日から適用されている。

論点 実務上の考え方
同じ会議に出席した それだけで直ちに共同保有者になるわけではない
共通の問題意識を伝えた 継続的な合意や共同で重要提案行為等を行う目的がなければ、直ちに共同保有とは限らない
議決権行使を共同で約束した 合意内容と継続性によっては共同保有者に該当し得る
経営支配に重要な変更を共同で求める 「重要提案行為等」に該当するかを個別に確認する必要がある

したがって、協働対話が自由になったと単純化するのも、すべて共同保有になると恐れるのも正しくない。投資家側は、対話の目的、合意の有無、議決権行使の独立性を記録する必要がある。発行会社側も、法的な分類を自ら決めつけるのではなく、対話の実態を確認すべきである。

発行会社はどう受け止めるか

協働対話の申し入れを受けたら、次の五点を確認する。

  1. 参加者。 どの運用会社、アセットオーナー、助言者が参加するのか。
  2. 目的。 情報収集、意見交換、特定の改善要請、株主提案の検討など、何を目的としているか。
  3. 議題。 資本配分、取締役会、気候、政策保有株式など、具体的な論点は何か。
  4. 権限。 参加者は各機関を代表して発言するのか。議決権行使判断は各社が独立して行うのか。
  5. 情報管理。 未公表の重要事実を扱わないこと、会議記録の扱い、参加者間の共有範囲をどうするか。

これらを確認したうえで、通常の投資家対話と同じように、会社側の出席者と回答方針を決める。議題が取締役会の構成やCEO後継者計画であれば、IRと経営陣だけでなく、取締役会議長や筆頭独立社外取締役の参加を検討する。資本配分や事業ポートフォリオであれば、CFOや経営企画が中心になる。

実質株主からの照会に備える

第三次改訂は投資家側の方針開示を促すものだが、発行会社側にも準備が必要である。株主判明調査を外部業者に任せるだけでなく、次の情報を社内で一元管理する。

  • 株主名簿上の名義
  • 判明している実質株主と運用担当者
  • 保有方針、投資期間、議決権行使方針
  • 過去の面談、質問、要望、会社の回答
  • 協働対話への参加履歴
  • 大量保有報告書、変更報告書、議決権行使結果との整合

投資家が保有状況の説明に応じない場合でも、直ちに対話を拒絶するべきではない。法令、契約、顧客守秘義務などの制約があり得る。会社が本当に必要とする情報――対話主体、投資判断者、議決権行使者――を絞って尋ねる方がよい。

対話の質を落とさないための原則

協働対話では、参加者が増えるほど会話が一般論に流れやすい。発行会社は、次の三つを意識する。

同じ資料を読み上げない

決算説明資料の再説明だけでは、協働対話の意味がない。投資家がなぜ共同でその論点を選んだのかを聞き、会社の判断と投資家の懸念がどこでずれているかを特定する。

未公表情報を個別に渡さない

複数投資家が参加しても、選択的開示のリスクは変わらない。未公表の業績、M&A、資本政策、取締役人事などは共有しない。必要な情報は適時開示や公表資料で市場全体に出す。

回答を取締役会につなぐ

重要な指摘は、面談記録に留めず、取締役会または所管委員会へ報告する。会社が採用しなかった意見についても、理由を説明できるようにする。対話は投資家の要望に従う場ではなく、取締役会の判断材料を増やす場である。

IR担当者が押さえるべき含意

  1. 協働対話の窓口を一本化する。 申し入れの受付、参加者確認、社内配布、記録、回答の責任者を決める。
  2. 一律拒否もしなければ、無条件受入れもしない。 目的、議題、参加者、情報管理を確認したうえで、適切な出席者を選ぶ。
  3. 共同保有者かどうかを、会議形式だけで判断しない。 合意内容、継続性、議決権行使、重要提案行為等の目的で決まる。
  4. 実質株主情報を対話履歴と結び付ける。 名寄せした株主名簿を作るだけでなく、誰がどの論点に関心を持つかを記録する。
  5. 対話結果を取締役会へ戻す。 どの意見を採用し、どの意見を採用しなかったか、その理由を次回の開示や面談で説明する。

出典・参考資料


本テーマの前の記事: 5.6 「2030年30%」を実現するには――女性役員候補をどう育てるか

本テーマの次の記事: 5.8 次の制度改正を読む――ガバナンス関連会議・研究会の全体像

他テーマの関連記事: